第91話 第三次ダンジョンアタック:第五層
宝物庫の奥にあった第五層への階段を降りると、空気が変わった。
湿り気を帯び、潮の香りが鼻をくすぐる。
カイルたちが通路を抜けたその先、視界が一気に開けた。
「……うわぁ……!」
キキが思わず声を漏らす。
そこには、地下とは思えぬほど広大な海辺の光景が広がっていた。
天井から差し込む魔光石の光が、海面を青白く照らしている。
「まさか、ダンジョンの中に……海があるなんてな」
カイルは呆然と呟きながら、
背後の家型ゴーレムに向かって呼びかけた。
「母さん、リーナ。着いたよ」
ギィィと音を立て、家型ゴーレムの扉が開く。
母がゆっくりと現れ、腕の中でリーナがきょとんと瞬いた。
「……これが、海……」
母の瞳に光が宿る。
足元の砂浜は柔らかく、波が静かに寄せては返す。
リーナが小さな手を伸ばし、波に触れた。
「ちゃぷ……!」
その冷たさに驚いたのか、目を丸くして笑う。
カイルはその笑顔を見て、
胸の奥に積もっていた疲れが、ゆっくりと溶けていくのを感じた。
「やっと……見せられたな、海」
父の骸骨ゴーレムも、静かに頷いた。
『感動。家族、全員、揃ウ。』
胸の光がやわらかく脈打つ。
キキは腕を組みながら、「まぁ、悪くない景色だわ」と、少しだけ照れくさそうに呟いた。
その後、カイルたちは砂浜に臨時の整備拠点を設けた。
戦闘で傷んだゴーレムたちが整列し、修理と魔石の調整が始まる。
「放水型は冷却系統が焦げてるな……光るのも一部ヒビ入り。護衛隊は腕部の補強が必要だ」
カイルが的確に指示を飛ばすと、父のゴーレムが補助作業を開始する。
『溶接モード、稼働。パーツ、再接合。』
キキはリーナをあやしながら、
「ほんとに……あんたの父親、変わってるわね」
笑みをこぼす。
母は穏やかに答えた。
「でも、もう“普通”じゃなくてもいいの。
こうして、みんなで生きていければ」
波の音が静かに響く。
カイルはその言葉を聞きながら、
修理中のゴーレムたちを見上げ、深く息を吐いた。
「……次は、この海の底か」
その呟きに、父の胸が淡く光る。
『未知ノ領域、探索準備完了。息子、次ノ冒険ハ海底ダ。』
カイルは笑い、拳を握った。
「よし……みんな、整備が終わったら海の底へ行こう!」
母が頷き、リーナが笑う。
波打ち際で、光るゴーレムたちが夜の星のようにきらめいていた。




