第8話 団長ブルトとカイル
s第8話 団長ブルトの目に留まる
数日後。
俺は畑の隅で、こっそり小さなゴーレムに雑草抜きをさせていた。
父トットも母クレアも、もうすっかり慣れたもので、俺が「魔法の練習」と称してゴーレムを呼び出すことに、何も言わなくなっていた。
「カイル、もう少し向こうの草をお願い」
クレアが微笑みながら指を差す。
俺は頷き、ゴーレムに命じた。
カタ、カタ……。
ぎこちないが、確かに雑草を引き抜き、山のように積み上げていく。
そのときだった。
「ほう……これは珍しいものを見た」
低い声に振り返ると、そこに立っていたのは開拓団の団長ブルトだった。
壮年の大男。広い肩幅、鍛え抜かれた腕、額には深い皺。
いつも鍬や斧を振るいながら、村人たちをまとめ上げてきたこの辺境開拓地の実質的なリーダーだ。
「ブ、ブルト団長……!」
トットが慌てて頭を下げ、クレアも緊張した面持ちで背筋を伸ばす。
だが、ブルトの視線は俺たちではなく。
俺の隣で動く小さな石の人形に注がれていた。
「カイル……だったな。お前、その“石の魔法”はどうやっている?」
俺はとっさに言葉を詰まらせた。
研究だ、なんて言えるはずもない。
だから、いつものようにごまかす。
「……魔力を流したら、石が勝手に動くようになって……。魔法、みたいです」
ブルトは腕を組み、しばし無言でゴーレムを見つめていた。
やがて、口元にわずかな笑みを浮かべる。
「なるほど。便利だな。力仕事に使えそうだ」
「えっ?」
思わず声を漏らす俺に、ブルトはゆっくりと歩み寄り、低い声で言った。
「この開拓地は人手が足りん。材木運びや石の積み上げは、子供にはできん重労働だ。だが……お前のその魔法なら、少しは助けになるかもしれん」
「……!」
胸の奥が熱くなった。
それはつまり、俺の“研究”が初めて“役に立つ”と認められた瞬間だった。
トットは驚いたように目を丸くし、クレアは息を呑んで口元を押さえる。
だがブルトは真剣な眼差しのまま、俺を見据えて言葉を続けた。
「カイル、今度の木材運びで力を貸してくれないか? もちろん危険なことはさせん。お前の“魔法”がどれほどの力を持つか、確かめてみたい」
俺は一瞬迷った。
けれど、すぐに心を決め、強く頷いた。
「……はい。やってみます!」
ブルトは満足げに笑い、トットの肩を叩く。
「いい息子を持ったな、トット。これから、この開拓地にとって大きな力になるぞ」
そう言い残し、団長は背を向けて去っていった。
静寂の中で、俺は拳を握りしめる。
ついに秘密の研究が、この村の未来を動かす一歩になろうとしていた。




