第87話 第三次ダンジョンアタック:第三層
白霧の幻想世界を抜けた一行は、再びゆっくりと下層へと前進した。
視界が赤く染まる。立ち込める硫黄の匂い、地を這う熱気。そこはまさしく火山の地獄だった。
「うわぁ……久しぶりの熱風サウナかよ……」
カイルが鎧の中で呻く。
「火口の中でバーベキューできそうだね」
キキは額に手をかざし、熱気を払いながら言った。
放水型ゴーレムがミストを撒き散らし、家型ゴーレムの周囲に冷却の霧を作る。
母と赤ん坊のリーナは中で心配そうに外を見ていた。
「……カイル、大丈夫かしら。」
「にー、にー」
リーナの小さな声が響く。
「心配されるって複雑だな……」
カイルは苦笑しつつ、人型鎧ゴーレムの中で前線を見渡した。
地面は裂け、赤い溶岩が流れ、空気さえ歪む。
「火口温度、摂氏八百度。地面に触れたら即焼け死ぬな」
『同意スル。落チタラ骨モ残ラナイ。』
「父さん、軽く言うな!」
そんな軽口を交わした瞬間、前方の岩壁が爆ぜた。
溶岩が吹き上がり、そこから人の形をした炎がゆらりと立ち上がる。
燃える髪、真紅の瞳。
体の中心に、巨大な魔石が脈動していた。
「……中ボス、炎の魔人か」
キキが呟く。
「この前より熱量反応が桁外れ。こいつ、普通に都市ひとつ燃やせるよ。」
「魔人が強化したのか?でも、やる事は一つ倒すしかないってことだ」
カイルがゴーレム軍に指令を出す。
「護衛ゴーレム前進! 放水型は冷却支援!」
魔人の腕が振り下ろされると、地面が爆発した。
護衛ゴーレムが数体、炎に包まれて溶ける。
その光景に、カイルの中で何かが切れた。
「おい……ふざけんな……!」
新たに改良した人型鎧ゴーレムの両腕が光り輝く。
魔力炉が唸りを上げ、カイルの声が響く。
「フルバーストモード、解放ッ!!」
次の瞬間、空気が弾けた。
魔力砲が十重二十重に撃ち込まれ、爆音と共に火山が揺れる。
キキが慌てて叫ぶ。
「ちょっ!? やりすぎっ!! 周囲の温度が上がってるってば!!」
炎の魔人が咆哮するが、その声もすぐに掻き消える。
最後の閃光と共に、魔人の胸の魔石が砕け散り、光が霧散した。
静寂。
キキが息をつき、呆れたようにカイルを睨む。
「中ボス一体にフルバースト三回って……やりすぎ以外の言葉が見つからない。」
「いや、ちょっと熱くなっちゃって……」
カイルが頭をかくと、父の魔石が光った。
『過剰攻撃。資源ノ無駄。息子、反省セヨ。』
「うるさいな父さんまで!」
キキは吹き出した。
「反省って出てるよ、ちゃんと。」
「だってさ……護衛やられたの見て我慢できなかったんだよ。」
カイルが少し俯くと、キキは笑って肩を叩いた。
「……まあ、守るためならいいんじゃない? でも次はほどほどにね。」
火山の熱気の中、
蒸気と光に包まれながら、彼らは次の階層への通路を見上げた。
『目標地点、下層入口。進行可能。』
「よし……次へ行こう。」
百のゴーレムを従え、カイルたちは赤熱の大地を前進にした。




