第85話 第三次ダンジョンアタック:第一層・湿地帯での行進
湿った空気がまとわりつく。
第一層。その広大な湿地帯は、前回の探索時よりもさらに深く、陰鬱な霧に包まれていた。
「ふむ……気温、湿度、前より上がってるな。魔力の濃度も高い」
カイルは人型鎧ゴーレムの中で周囲をスキャンしながら、冷静に状況を分析した。
ヘルメットの奥で魔導表示が流れ、数値が淡く光る。
『警戒、警戒』
父親のディスプレイが浮かび上がる。
護衛ゴーレムたちは整然と列を成し、膝まで沈む泥濘の中を力強く踏み進めていく。
その中央。カイルの横を、家型ゴーレムがのしのしと歩いていた。
窓からは母とリーナの姿。
母は不安げに外を見つめていたが、リーナは窓に顔を押しつけ、
ぺたぺたと小さな手でガラスを叩いて喜んでいる。
「みー! みー!」
「……カイル、本当に大丈夫なの?」
「心配ない。護衛ゴーレムは強化済みだし、巨兵も分解して運んでるから、いざとなればすぐ再組み立てできる。」
湿地の奥。霧の中を、放水型ゴーレムが一斉に放水を開始した。
高圧の水流が泥を洗い流し、進軍のための仮通路を作り出していく。
「放水型一号から三号、通路の確保を優先! 光型は視界を確保だ!」
カイルの声が響くと同時に、
光るゴーレムたちが淡い白光を放ち、霧を押しのけて前方を照らした。
光が水面に反射し、まるで星の川のように美しい。
しかし、その静寂を破るように。
ぬるり、と泥の中から何かが動いた。
「来たか……!」
カイルが剣を構えるより早く、護衛ゴーレムの一体が前へ出た。
泥を割って現れたのは、巨大なカエルの魔物。
舌のような触手を伸ばし、ゴーレムの胴体を絡め取ろうとする。
だが、護衛ゴーレムは力任せにその舌を掴み。
ぐい、と引きずり出した。
泥の中から現れた巨体に、キキが思わず声を上げる。
「おおーっ! でっか! けど、見た目ほど強くなさそ!」
護衛ゴーレムの拳が、カエル型魔物の頭部を叩き潰した。
粘液が飛び散り、霧の中に白い蒸気が立ちこめる。
「進軍再開! 敵は散発的だ、焦らず進め!」
カイルの号令とともに、
家型ゴーレムがのしり、のしりと前進を続けた。
湿地を進むたびに、水面が波打ち、光が反射する。
その光景を見つめながら、カイルはふと笑った。
「……第三次ダンジョンアタック、順調すぎるな。」
その声に、父の胸部魔石が光を点滅させる。
『油断、禁物。』
「わかってるって。」
その言葉を最後に、
隊列は霧の奥へと進んでいく。
次なる階層、その入口を目指して。




