第83話 再び、大穴へ
森の夜明けは静寂に包まれていた。
霧が木々の間を漂い、朝日が金属の表面に反射して淡く光る。
その光を浴びて動き出したのは、百体のゴーレムたちだった。
護衛型、放水型、光源型、水中型、そして強化型可変式巨兵ゴーレム。
それぞれが規律正しく並び、低い魔導音を響かせながら起動を完了させていく。
金属が擦れる音が森の空気を震わせ、鳥たちは驚いて一斉に飛び立った。
「よし……全機、起動確認完了。」
カイルは胸の前で手を握り、深呼吸する。
彼の背後では、可変式巨兵ゴーレムがゆっくりと立ち上がり、
その背中には“家型ゴーレム”――母とリーナを乗せた、歩く要塞が固定されていた。
家の窓から顔を出した母が優しく声をかける。
「気をつけてね、カイル……。無理はしないこと。」
「ままー!」
リーナが両手を振る。赤ん坊特有の高い声が、緊張した空気を少しだけ和ませた。
骸骨の父は胸部の魔石を淡く光らせ、光文字を浮かべた。
『任務開始。我、護衛責任者。』
「父さん、いちいち軍人っぽいなぁ……」
カイルは苦笑しつつ、隣で腕を組んでいたキキを見る。
「じゃ、行こうか。全員、出発準備!」
「はぁ……やっぱり百体とか、やりすぎじゃない?」
キキが呆れ顔でため息をつく。
「森が揺れるわよ、これ。」
「そのくらい派手じゃないと、リーナに海を見せられないだろ?」
「言ってることが無茶苦茶よ……!」
それでも、キキは笑っていた。
彼女もまた、この大規模な冒険に心が高鳴っていたのだ。
カイルが手を上げて号令をかける。
「全ゴーレム部隊。行軍開始!」
重々しい足音が大地を揺らす。
護衛型が先頭に立ち、光るゴーレムが周囲を照らし、
放水型が進路の土埃を冷ますように霧を噴射する。
そして列の最後尾には、家型ゴーレムを守るように背負う可変式巨兵ゴーレム。
その行進は、まるで一つの小国家の軍勢のようだった。
数時間後、森の木々の密度が薄れ、
巨大な“地の裂け目”ダンジョンの大穴が視界に入った。
吹き上がる冷たい風が、かつての死闘を思い出させる。
黒く焦げた岩肌と、底の見えない暗闇。
まるで地の底から何かが呼んでいるような、不穏な気配があった。
「……着いたな。」
カイルの声に、父が光文字で応える。
『再侵入、準備完了。』
キキが隣で小さく頷いた。
「今度は百体体制……今度こそ最深層まで行けるかもね。」
「行くさ。今度は“家族全員”で。」
カイルは笑い、巨兵の胸部ハッチへと乗り込む。
コックピットの魔石盤が光を放ち、
背後の百体のゴーレムたちが一斉に目を輝かせた。
「目標、大穴ダンジョン。全ユニット、前進開始!」
指令の声とともに、金属の軍勢が動き出す。
大地が揺れ、森が鳴動する。
その光景は、まさに“ゴーレム百機の行進”。
家型ゴーレムの窓から、母とリーナが小さく手を振った。
それを見たカイルは小さく笑い、胸の奥で呟く。
「今度は、もう退却はしない。」
光るゴーレムが前方を照らし、
巨大な穴の奥へ。家族と百のゴーレムが、再び挑む。




