第78話 帰還
ダンジョンの入口へと続く通路は、まるで永遠に終わらない試練の道のようだった。
砂漠を抜け、宝を抱え、バラバラにした巨兵の部品を担いで進む。その足取りは、もはや冒険者ではなく、敗走する兵のように重かった。
「……もう、歩けない……」
キキが肩で息をし、杖を突いて崩れ落ちそうになる。
カイルも同じく、両手を砂と汗で真っ黒にしながら息を吐いた。
「あと少し……ここを抜けたら、リフトまで行ける……」
護衛ゴーレムたちは無言で荷を運び続けていた。
光るゴーレムの灯りが、湿った岩壁に淡く反射する。
放水型ゴーレムはもはや蒸気すら出さず、乾いた音を立てて動いていた。
そして。ようやく、見慣れた大穴の底にたどり着いた。
「……着いた……!」
カイルが声を上げると、父の骸骨ゴーレムの胸部がほのかに光った。
『帰還、確認』
カイルは笑いながらも、すぐその場に座り込む。
「父さん、それ……報告っぽいけど、ちょっと感動が足りないよ……」
キキはへたり込みながら笑った。
「もう……どんな感動の言葉より、“帰還確認”って響くわよ……」
カイルは苦笑しつつ、護衛ゴーレムたちに指示を出す。
「エレベーター、起動」
リフト用のゴーレムが動き出し、縄を巻き上げる音が岩壁に響く。
荷を載せ、仲間たちを載せ、一段ずつ、静かに上昇していく。
長い昇降ののち、夜の森の空気が頬を撫でた。
木々の間から差し込む月光が、まるで帰還者を迎えるかのように優しく照らす。
「……帰ってきた……」
カイルが呟くと、胸の奥がじんと熱くなる。
全員が最後の力で森を歩む。
森の奥から、小さな灯りが見えた。
それは母が焚いたランプの光。そして、家。
リーナの泣き声が、かすかに夜風に混ざる。
キキは目を細めて、ぽつりと言った。
「帰る場所があるって……いいわね」
骸骨の父がその胸を明るく光らせる。
『我、帰宅』
カイルは思わず吹き出した。
「ははっ……もう、それ最高の言葉だよ、父さん」
こうして長いダンジョン探索と地獄の行進は終わり、カイルたちは再び静かな森の家へと帰還した。




