第70話 砂の遺跡
砂丘の向こう。陽炎の中に、奇妙な石の影が浮かび上がった。
最初はただの岩かと思われたが、近づくにつれ、それが明らかに人工の建造物の一部であると分かる。
崩れかけた塔、半ば砂に埋もれた門柱。
そして中央には、風化しながらもなお威圧感を放つ巨大なドーム状の建物が鎮座していた。
「……遺跡だな」
カイルが低く呟く。
隣でキキが指先を空に掲げ、詠唱の言葉を紡いだ。
淡い緑の光が遺跡全体を舐めるように走り、古びた石壁を照らす。
「魔力反応あり……しかも相当古い。たぶん、千年以上前の“魔文明期”のものよ」
「ってことは、ここも“ダンジョン”の一部かもしれないな」
「可能性は高いわね。地上に露出してる構造体なんて、滅多にないもの」
そのとき、父の骸骨ゴーレムが淡く光る文字を空中に浮かべた。
『警戒を推奨。中枢部に魔物の気配あり』
「了解。護衛ゴーレム、前進配置」
カイルの指示に応じ、砂の上に待機していた複数の護衛ゴーレムが一斉に展開する。
前方を照らすように光を放ち、遺跡の内部をゆっくりと照らし出した。
壁面には、びっしりと古代文字が刻まれている。
カイルが眉を寄せる。
「読めるか?」
「いや……でも、少し似てる。前に見たゴーレム制御文の初期型かもしれない」
キキが慎重に壁へ手を伸ばし、指先で古代文字の溝をなぞった。
その瞬間。
石の奥から低い振動が伝わってくる。
遺跡全体が呼吸を始めたかのように、ドームの奥から“起動音”が響いた。
「ちょ、ちょっと! 何か起動したよ!?」
カイルが思わず身構える。
キキは戸惑いながらも、興奮を隠せない声で言った。
「知らない! でも……まだ動くわ! この遺跡!」
その言葉と同時に、砂に埋もれていた門が重々しい金属音を立てながら、ゆっくりと開いていく。
熱風が吹き抜け、砂を巻き上げる。
カイルはその光景を見つめ、目を細めながら口元に笑みを浮かべた。
「……面白くなってきたな。行こう、みんな」
キキは少し不安げに笑いながらも、胸の奥にわくわくするような感情を抑えきれずにいた。
「久しぶりにワクワクしてきたわ!」
そう言って杖を構え、カイルの背に続く。
父の骸骨の鎧型ゴーレムが静かに光の文字を浮かべた。
『探索開始。息子、油断禁物』
カイルは頷き、わずかに口角を上げる。
「分かってるよ、父さん」
砂の遺跡の闇の奥。
そこに何が眠っているのか。
新たな冒険の扉が、今まさに開かれようとしていた。




