第55話 第三階層への降下
広間の奥に続く階段は、地鳴りのような低い音を立てながら開かれていた。
カイルたちは光るゴーレムを先頭に、慎重に下へと降りていく。
階段を抜けた先は、これまでとは全く違う光景が広がっていた。
天井は高くなく、むしろ圧迫感のある低い洞窟。
壁面には赤い鉱石が脈のように走り、ぼんやりと不気味な光を放っている。
「……空気が重いな」
カイルは人型鎧ゴーレムの操縦席の中で息を飲む。
まるで森とは別の生き物の腹の中にいるようだった。
光るゴーレムが前方を照らすと、地面に奇妙な紋様が浮かび上がる。
複雑な円形陣、明らかに自然のものではなかった。
「これ、罠かもしれないわ」
キキが眉をひそめ、杖でそっと地面を突く。
その瞬間。
ズルッ、と地面の一部が崩れ、穴から無数の影が這い出してきた。
「……魔物か!」
現れたのは、全身が煤けた黒い毛に覆われた小鬼、暗黒ゴブリンの群れだった。
普通のゴブリンよりも二回り大きく、牙は鋭く光っている。
「数が多い!」
カイルはとっさに指示を飛ばす。
「護衛ゴーレム、前へ! キキ、援護を!」
ドゴッ! ガシャン!
護衛ゴーレムたちが一斉に前へ進み、盾を構えて群れを押し返す。
光るゴーレムが光量を上げ、暗黒ゴブリンたちが眩しさにたじろいだ瞬間、キキの魔法が炸裂した。
「《ファイアランス》!」
炎の槍が数体をまとめて貫き、黒い煙が立ちのぼる。
カイルの人型鎧ゴーレムも動き、剣を振り抜く。
鋼鉄の刃が敵を両断し、ドロップした魔石が転がる。
戦いは短く激しく、やがて群れは殲滅された。
「ふぅ……最初から手荒い歓迎だな」
カイルが苦笑しながら魔石を拾い集める。
キキは険しい顔で周囲を見渡した。
「この階層……ただの洞窟じゃない。罠と魔物が一体化してるみたい。気を抜けば一瞬で全滅するわよ」
父の人型鎧ゴーレムの胸の板に文字が浮かぶ。
『注意。先行偵察を強化すべき』
「……わかってるよ、父さん」
カイルは真剣な顔で答えた。
第三階層。
それはこれまでの比ではない危険が潜む領域だった。




