第32話 ダスパの街の日常
朝の陽光が街の石畳を照らす。
ゴーレムに乗ったまま、俺は商人ギルドを出た。
街の人々は依然として、鎧を着た大人として俺を見ている。
「さて……調味料を買い揃えるか」
俺は胸部の炉心を微かに光らせ、威圧感を維持しながら露店を巡る。
通りの向こうで、小さな騒ぎが起こった。
荷車が人混みにぶつかり、商品が散乱している。
「よし、ゴーレム、手伝え」
俺はゴーレムの腕を伸ばし、散らばった箱を持ち上げる。
店主が驚きつつも感謝の声を上げた。
「お、おお……立派な御方……!」
「手伝ってくれるなら代金は要らない」
俺は軽く頷き、ゴーレムを静かに下ろす。
人々は大人の鎧を着た人物としてしか見えず、その力に畏怖を抱いたまま頭を下げる。
キキは横で小さくため息をつく。
「ほんと、街の人はビビりすぎ……でも、便利ね」
「うん。見せびらかすつもりはない。でも、舐められないのは大事だから」
俺は言いながら、ゴーレムを軽く揺らし、露店の商人と交渉する。
スパイス、塩、油、保存食――必要な調味料をすべて揃えたところで、ある情報を耳にする。
「……森の西側で、魔物の群れが街道を塞いでいるらしい」
商人が小声で話すのを、俺は聞き逃さなかった。
「ふむ……この街を通るには、俺たちが力を見せる必要があるな」
俺は胸部の魔石炉心を確認する。
守護巨兵と違い、この大人型鎧は目立たず、街中でも行動できる。
キキは小さく笑い、耳をぴくぴく動かす。
「ふふ……あなた、やっぱり冒険者ね」
「うん。母さんとリーナのためにも、俺が守らなきゃ」
俺はゴーレムの操縦桿を握り直し、再び街の奥へ足を進めた。
こうして、ダスパの街での日常は、調味料の購入、情報収集、街中での小さな戦力アピールを兼ねた冒険の舞台となった。
鎧ゴーレムに乗った少年。
カイルの存在は、街の人々の目には威圧的かつ頼もしい“謎の大人”として映っていた。




