第26話 旅立ちの決意
「……やっぱり味が薄い」
母がスープを口にして、小さく苦笑した。
肉も野菜もある。けれど塩気も香辛料もなく、味はどうしても淡白すぎる。
「毎日これじゃ、心まで痩せちゃうわね……」
母がリーナを抱きながらため息をつく。
俺も匙を置いて頷いた。
「だから、調味料が要るんだ。塩、胡椒、香草……なんでもいい」
すると、キキが得意げに口を挟んだ。
「だったら決まりね。森を抜けてインダスパ共和国に行きましょう」
「共和国?」
「国境近くの街〈ダスパ〉よ。市場が開かれていて、人も物も溢れてる。調味料なんて山ほど手に入るし……」
キキは俺を見てにやりと笑う。
「アンタがため込んでる“魔石”を商人ギルドに売れば、しっかり金になるわよ」
俺は思わず拳を握った。
塩や香辛料がある食卓……それだけで母とリーナの笑顔が浮かぶ。
そして魔石を金に替えられるなら、今後の暮らしの基盤にもなる。
母は不安げに首を振った。
「でも、私たちまで一緒に行くのは危険じゃない?」
「だから、俺とキキで行く」
俺は即答した。
「母さんとリーナはここに残ってくれ。父さんの骸骨とゴーレムがいるから守りは十分だ」
「カイル……」
母は胸にリーナを抱きしめ、心配そうに俺を見つめた。
俺は決意を込めて笑いながら言った。
「必ず帰ってきます。調味料を両手に抱えて」
その夜、俺は羊皮紙に炭を走らせた。
描き出されるのは、人型の巨兵。
胸に魔石の炉心を抱き、逞しい四肢を備えた“守護巨兵”旅を支える相棒だ。
キキは絵を覗き込み、頭を抱えた。
「アンタ、ほんとにバカね……でも、旅ってのはそういう“バカ”がいないと始まらないのかもね」
キキは笑顔で、俺を皮肉るように語った。




