第23話 失われたもの
キキは、しばらく俺たちと共に暮らすことを選んだ。
森に住むエルフの知識は豊富で、薬草の見分け方や毒の抜き方、罠の設置、さらには精霊の力を借りた魔法まで教えてくれた。
「これが……魔法か……!」
指先から光や炎を生み出す様子を見て、胸が高鳴る。
だが……。
「カイル、今度はお前の番だ」
キキの声に従い、俺も真似してみたが、何も起きなかった。
「……やはり駄目か」
キキは眉を寄せた。
「お前には精霊の加護が届いていない。魂が……別の術式に縛られている」
つまり、俺は魔法を使えないらしい。
その代わりにあるのは、前世の記憶とゴーレムを創る禁忌の技だけ。
その夜、焚き火の前で俺はキキに願った。
「……父さんを埋めた場所に戻りたい。リーナに……父さんを会わせてやりたいんだ」
キキは長く沈黙したあと、低く言った。
「墓を暴くなど正気の沙汰じゃない。……だが、お前の目を見れば、止めても無駄か」
渋々頷いたキキと共に、俺はゴーレムを従えて森を抜けた。
開拓団の村は、跡形もなく荒れ果てていた。
畑は枯れ、家々は崩れ、かつての人々の気配はどこにもない。
吹きすさぶ風が虚しく音を立てるだけだった。
「……誰も……いない……」
胸の奥が冷たく凍る。
俺は父を埋めた小さな墓標の前に立った。
そこだけが奇妙に残されていた。
膝をつき、手で土を掘る。
やがて現れたのは、乾ききった白い骨。
「父さん……」
涙が零れ落ちる。
「ごめん……守れなかった……でも……今度こそ俺が……!」
キキが口を開きかけた瞬間――。
俺は懐から魔石を取り出し、骨の胸部に押し当てた。
次の瞬間、陣形のような光の模様が骨格を走り抜け、淡く脈動し始める。
「カイル!? お前、まさか!!」
骨がぎしぎしと動き、立ち上がった。
空洞の眼窩に青白い光が灯り、ぎこちなく俺を見下ろす。
「……父さん……」
呼びかける俺の声は震えていた。
キキは息を呑み、蒼白になった。
「禁忌を……さらに越えた……! 死人を……骨を……動かすなんて……」
俺は父の骨の手を握りしめた。
「俺は……どうなってもいい。でも……リーナに父さんを……会わせたいんだ」
骨のゴーレムは、かすかに首を傾げた。
その仕草が、ほんの一瞬だけ父に重なって見えた。
キキは啞然と立ち尽くし、ただ呟いた。
「……狂気だ……だが、この子は……本気で家族を……」
月明かりの下、俺の選んだ禁忌の道が、確かに始まってしまったのだった。




