第207話 退却の決断
中央ダンジョン・中層、魔境の塔。
救助は一段落しつつあった。しかし倒れている人数は多い。
ナルサが周囲を見渡す。重傷者、歩けない者、意識が不安定な者。
「……運ばないと」
カイルを見る。カイルは頷いた。「馬車を使え」
「……わかった」ナルサの目が決まる。すぐに動き出した。
「動ける人は手伝って!」
生き残った冒険者たちに指示を出す。最初は戸惑っていた者たちも、やがて従い始めた。
ゴーレム馬車が開く。広い内部。しかしそれでも足りない。
ナルサは迷わない。「詰めて!」
重傷者を優先し、メイドゴーレムが担架のように運ぶ。一人、また一人。丁寧に、しかし迅速に。
「いっぱいだね……」リーナが心配そうに見る。
「搭載率、限界近い」ヒカリが言う。
「まだ入る」ナルサは歯を食いしばった。
スペースを調整し、無駄を削っていく。
そして、ついに最後の一人。
《閃光の剣》のリーダーだった。
ナルサは一瞬だけ手を止めた。男は目を逸らす。何も言えない。
沈黙。
ナルサは何も言わずに。
「乗せて」
それだけ言った。メイドゴーレムが持ち上げ、馬車へ運ぶ。全員、収容完了。
ナルサは振り返り、カイルたちを見た。
「……私は先に出る」
「任せる」カイルが頷く。
「気をつけてね」母が優しく言う。
「またね!」リーナが手を振る。
「安全帰還を推奨」ヒカリも言った。
ナルサは少しだけ笑った。「うん」
そして、ゴーレム馬車に乗り込む。「出発!」
ゴーレム馬車がゆっくりと、しかし確実に動き始めた。塔を離れ、ダンジョンの通路へ入っていく。暗い道。しかしもう、恐怖はない。守るべきものがある。
「絶対に、連れて帰る」
ナルサは前を見据えた。その声は強かった。
後ろには多くの命、前には出口。
ゴーレム馬車は進む。救出された者たちを乗せて。
一つの戦いは終わり、次は帰還。
その責任を背負い、ナルサは進んだ。




