第20話 森の生活
深い森の中。
人の手の入らぬ大樹の陰に、粗末ながらも屋根を持つ小屋が建っていた。
それを建てたのは俺ではない。
父を失ったあの夜に生まれた、怒りと悲しみのゴーレムだ。
巨体の石の腕で木を切り倒し、削り、組み立てる。
俺はただ、設計の指示を出しただけだった。
「そこを支えに……その角材を横に……」
まるで工場のラインを操るように、家はわずか数日のうちに姿を現した。
食糧も同じだった。
俺が罠を仕掛けるより早く、ゴーレムが突進してイノシシを仕留める。
焚き火の煙の横で、肉を焼く匂いが漂った。
けれど、森は穏やかではない。
ときに現れるのは獣ではなく、魔物だった。
緑の肌をしたゴブリンの群れ。
牙を剥いたリーフウルフの群れ。
犬の顔をしたコボルトの群れ。
さらには棍棒を振り回すオークの群れまで。
「ゴーレム、行けっ!」
俺の声に応じて、石の巨体が吼えるように地を蹴る。
拳が振り下ろされるたび、ゴブリンとコボルトが粉砕され、リーフウルフが宙を舞い、オークの胸骨が砕けた。
地面に転がるのは死体ときらめく魔石。
「……こんなに、拾いきれないくらい……」
ゴーレムの戦いの後、俺は袋いっぱいに魔石を詰め込んでいた。
赤、青、緑、黒。
さまざまな色合いの結晶が手の中で光る。
前世では夢でしかなかった研究素材が、今は目の前に山ほどある。
俺の暮らしは、皮肉にも森の脅威によって支えられていた。
けれど、どれほど魔石を集めても、不安が消えることはなかった。
母は生きている。
だがそれは、人間ではなく。
俺が「繋ぎ止めた存在」だ。
瞳には時折、空ろな光が宿り、記憶は断片的にしか戻らない。
それでも母は腹を撫でる。
「……カイル……この子……大丈夫、だよね」
掠れた声に、俺は答えられなかった。
母の腹は確かに膨らんでいる。
中に赤ん坊はいる。
けれど、生まれるのか? 生まれても、人間なのか?
(母さんの体はもう人間じゃない。人工生命体だ。そんな体から生まれる命……それは……)
夜、焚き火の前で母の寝顔を見ながら、俺は膝を抱えた。
人間として生まれるのか、それとも……。
森の静けさは、未来への不安を増幅させるだけだった。




