第19話 禁忌
血に濡れた父と母の亡骸の前で、俺は魔石を握りしめて震えていた。前世の記憶が頭の中で嵐のように渦を巻く。
(人間の神経は電気信号…魔石で代替できるはずだ。死んだ身体を蘇らせることはできない。けど…人工生命体としてなら!)
必死に、俺は父と母の身体に手を伸ばした。どれだけ魔力を注いでも、応えは返ってこない。
「魔力が足らない⋯」
カイルは父を諦めるしかなかった。
「……父さん……ごめん……っ!」
涙を流しながら、俺は母の身体の一部を裂き、魔石を押し込んだ。
団長ブルトの革袋から奪った魔力糸や金属片を繋ぎ合わせ、命の残滓を必死に縫い止める。
やがて、身体が光り出し、母の瞼が震え、空ろな目が開いた。
「……カ……イ……ル……?」
掠れた声。記憶も温もりも失われているかもしれない。それでも、彼女は動いた。
「母さん……絶対に守るから!」
俺は嗚咽混じりに叫び、立ち上がる。そして父の亡骸を森の外れへ運び、土を掘った。血で汚れた手で土をかき集め、震える声で言葉を紡ぐ。
「……父さん……救えなかった。俺には力が足りなかった……」
土をかぶせ終えると、俺はその場に額を押し付け、声を押し殺して泣き叫んだ。
「ごめんなさい……っ!! ごめんなさい父さんっ……!」
涙と泥にまみれたまま土下座し、何度も拳で地面を叩く。その音だけが、森に虚しく響いた。
やがて俺は立ち上がり、母を抱えたゴーレムに命じた。
「……母さんを抱いて……森の奥へ……」
ゴーレムはゆっくりと母を抱き上げ、闇の森へと歩き出す。俺は背に鍬とわずかな荷物を背負い、父の墓を振り返ることなく歩き出した。
「父さん……必ず守る。母さんと……お腹の赤ちゃんを」
禁忌を犯し、神を敵に回すとしても。
それでも、進むしかなかった。




