第18話 血塗られた夜
父と母が、俺の目の前で崩れ落ちた。
赤黒い血が床に広がり、二人の温もりはあっという間に消えていく。
「……ぁ……ああああああああああっ!!!」
絶叫と共に、握りしめたスライムの魔石が灼熱のように燃え上がった。
空気が歪み、大地が震動する。
「な、何だこれは……!」
「地面が……裂けるぞ!」
アルレスの兵士たちが叫ぶ。
鎧のきしむ音、剣が抜かれる音。
そのすべてを嘲笑うかのように、家の周囲の土と石が渦を巻き、漆黒の巨体が地を突き破った。
それは怒りと憎悪を形にしたかのようなゴーレム。
赤い光を宿した双眸が、夜闇を焼き裂く。
「し、仕留めろ! あの怪物を討ち取れ!」
アルレスの命令で兵士たちが突撃した。
剣が閃き、槍が突き出される。
しかし。
巨腕が薙ぎ払った瞬間、兵士たちの身体は木の葉のように吹き飛んだ。
鎧ごと粉砕され、地面に叩きつけられた肉片が散る。
返り血が雨のように降り注ぎ、夜の空気を鉄臭く染めた。
「ひ、ひいいいっ!!」
恐怖に駆られた村人が逃げようとしたが、ゴーレムの足が振り下ろされ、地面ごと肉体が潰される。
叫びも骨の音も、すべてが土に飲み込まれていった。
団長ブルトも叫びを上げた。
「カイル……すまん……!」
その言葉が最後だった。巨拳が彼の体を叩き潰し、命ごと沈黙させる。
「やめろ……やめろォォォ!!!」
アルレスが必死に剣を振るうも、巨体の前ではあまりに無力だった。
次の瞬間、振り下ろされた腕が彼を捕らえ、大地に叩きつける。
代官の身体は肉と骨の塊と化し、辺境伯の命を担ったはずの男は無残に潰えた。
血と死臭に満ちた光景の中で、俺は膝をつき、嗚咽を漏らした。
「父さんっ……母さんっ……なんで……どうして……!」
涙に濡れた視界の奥で、倒れた両親の姿が見える。
心の中に、狂おしい声が湧き上がった。
(もし……もしも死んだ父さんや母さんに魔石を入れたら……ゴーレムのように……また動いてくれるんじゃないか……?)
震える手で、俺は懐から魔石を取り出し、母の胸元へ押し当てた。
「お願いだよ……母さん……父さん……動いてよ……!」
血に濡れた小さな手と、冷たくなった二人の身体。
嗚咽は止まらず、狂気と絶望が入り混じった夜の叫びが、暗い森へと響き渡った。




