第16話 イリスの代官と辺境伯の命
ルルーレン王国・王都。
重厚な館の執務室にて、東西南北の辺境を統べる大貴族、ローデリヒ・フォン・グランツ辺境伯は一通の報告書を手にしていた。
「……開拓地に“ゴーレムを操る子供”がいる、か。子供の戯言とも思えるが、もし真なら王国にとって計り知れぬ益となる」
彼は書状を机に置き、近侍を呼びつける。
「イリスを治める代官、アルレス・ド・ラードを呼べ。現地の監督者として、視察を命じる」
こうして辺境伯の命が、遠く辺境の都イリスへ届けられた。
イリスの代官館。
王都からの命令書を読んだアルレスは目を細め、冷ややかな笑みを浮かべた。
「辺境伯様直々の命とは……これはただ事ではないな」
彼はマントを翻し、従者に命じる。
「馬車を支度しろ。開拓団を訪ねるぞ」
数日後、森を背にした開拓地に豪奢な馬車が到着した。
村人たちは農具を置き、驚きと不安の混じった声を漏らす。
「代官様だ……!」
「どうして、こんな辺境に……」
馬車から降り立ったアルレス・ド・ラードは鋭い眼差しを村に向け、冷徹な声を響かせた。
「私は辺境都イリスを預かる代官、アルレス・ド・ラード。辺境伯閣下の命により、この地を視察に来た」
ブルト団長は緊張を隠しきれぬまま頭を下げる。
「代官様……わざわざお越しいただけるとは、光栄にございます」
アルレスは即座に言った。
「噂の子を見せよ」
広場に集められた俺は、深呼吸してゴーレムを呼び出す。
石の人形が地を揺らして立ち上がり、大木を抱えて軽々と運ぶ姿に、代官の護衛兵たちがどよめいた。
「すごい……!」
「六歳でここまでとは……」
アルレスはその光景を見つめ、ゆっくりと頷く。
「なるほど……辺境伯様が注目されるのも当然だ」
やがて彼は父と母に向き直った。
「トット殿、クレア殿。この子をイリスへ預けよ。辺境伯様の庇護のもとで育てれば、この力は王国の財産となる」
広場に重い沈黙が落ちる。
父トットは一歩踏み出し、毅然と言った。
「代官様。ありがたいお言葉ですが、カイルは俺たちの息子です。赤ん坊も生まれるのです。家族と共に生きることが、何より大事です」
母クレアもお腹を撫でながら続けた。
「この子は家族の一員。誰かに差し出すことなど、ありえません」
アルレスの瞳が冷たく細められた。
だが両親の声は揺るぎなかった。
「……そうか」
彼はマントを翻し、馬車に戻りながら低く告げる。
「視察の任は果たした。だが覚えておけ。辺境伯閣下は国のために有益な者を見逃されぬお方だ」
その言葉を残し、アルレスは馬車に乗り込み、イリスへの帰路についた。
広場には静けさが戻った。
俺は両親の背中を見つめ、胸に熱い決意が芽生えるのを感じていた。
(家族のために、生まれてくる赤ん坊のために、そしてこの開拓地を守るために。俺はもっと強いゴーレムを作ってみせる!)




