第136話 黒風の胎動、風精脈喰らい
黒い風穴の奥から、低く、粘つくような風音が響いていた。
吸う息が、重い。
「……空気が、腐ってる」
ヒカルが静かに言う。
カイルは腕を上げる。
「先行!!護衛ゴーレム、展開」
空から落下するように、複数の護衛ゴーレムが風穴周辺に着地する。
ドン、ドン、ドン。
地面が鳴るたび、エルフの戦士たちの背筋が伸びた。
白竜が、洞穴を睨む。
『……来る』
次の瞬間。
黒い風が、逆流した。
ズルリ。
何かが、風の中から這い出てくる。
形は定まらない。
だが、確かに“巨大”。
渦を巻く風そのものに、骨格のような影が走る。
「……生命体?」
キキが息を呑む。
「違う」
カイルは即答した。
「ダンジョンに近い存在だ。環境そのものを喰って、成長するタイプ」
ヒカリが、胸元の光を強める。
「このこ……さみしい。でも、まちがってる」
その言葉に、黒風が反応した。
風が、悲鳴のような音を上げる。
『ギ……ギ……』
音とも声ともつかない振動。
次の瞬間、黒風の塊が一気に膨張した。
攻撃。
「迎撃!」
護衛ゴーレムが一斉に前に出る。
風刃がぶつかり、鋼の装甲を削る。
だが、致命傷にはならない。
「効いてない……?」
エルフの戦士が叫ぶ。
「物理じゃない」
カイルが歯を食いしばる。
「風精脈そのものを殴らないと止まらない」
白竜が、翼を大きく広げる。
『我が風で、道を開く』
嵐が、黒風を裂いた。
内部に脈打つ“核”のようなものが一瞬見える。
「見えた!」
キキが叫ぶ。
「中心に、疑似コアがある!」
ヒカルが即座に理解する。
「ダンジョン未満の、失敗作みたいな存在だな」
カイルは、巨兵ゴーレムの制御を握り直す。
「狙うは中心部。一撃で仕留める」
巨兵が、踏み込む。
白竜の嵐が道を作り、護衛ゴーレムが周囲を固める。
黒風が、最後の抵抗とばかりに暴れ出す。
だが、その中心に初めて“恐怖”が宿った。
ヒカリが、静かに言う。
「……だいじょうぶ。おわったら、ちゃんと、かえるばしょ、つくろ」
その言葉が、黒風を一瞬だけためらわせた。
その一瞬を、カイルは逃さない。




