第135話 風精脈の異常、喰われる世界
山の奥から吹き上がる風は、これまでの白竜の嵐とは“質”が違っていた。
冷たいのに、生臭い。
流れるたび、周囲の風が痩せていく。
「……これは」
キキが顔色を変える。
「風精脈が……吸われてる」
白竜が、苦しそうに翼を畳む。
『……来たか。風を喰う、影』
「影?」
カイルが即座に聞き返す。
『我より下に棲むもの精脈そのものに、巣を張る存在だ』
ヒカルが眉をひそめる。
「つまり……」
「風を“発生源ごと”奪うタイプだな」
カイルが続けた。
ヒカリが、胸を押さえる。
「いや、この感じ……ダンジョンに、にてる」
その一言で、全員が凍った。
「ダンジョン……?」
キキが息を呑む。
「うん。でもね」
ヒカリは首を傾げる。
「ダンジョンみたいで、ダンジョンじゃない」
地面が、低く鳴動した。
山肌の一部が崩れ、奥に黒い風穴が姿を現す。
中で、何かが“呼吸”している。
『あれが……風精脈喰らい』
白竜の声が、悔しさに震える。
『我が守るはずだった。だが……勝てなかった』
「だから、風を集め続けたんだな」
カイルは理解した。
「生きるためと、封じるために」
白竜は、否定しなかった。
エルフの戦士たちがざわめく。
「そんなもの……知らなかった」
「族長は……?」
キキの兄が、歯を噛みしめる。
「……長老は、風精脈が弱っていることだけ知っていた。原因までは、知らなかったはずだ」
カイルは、一歩前に出る。
「決めよう」
全員の視線が集まる。
「白竜は敵じゃない。風精脈喰らいを倒す。そして……」
ヒカルが続ける。
「風精脈を再構築する」
白竜が、ゆっくりと頭を下げた。
『……我も、戦う。この山と、風を守るために』
その姿は、もはや“脅威”ではなかった。
同盟者だった。
ヒカリが、黒い風穴を見つめる。
「……おなか、すいてる。でも、たべかた、まちがってる」
カイルは苦笑する。
「また厄介なのを拾ったな」
だが、その目は燃えていた。
「行くぞ。本当のボス戦だ」
巨兵ゴーレムが、再び構えを取る。
白竜が翼を広げ、その背後で嵐が味方する。
エルフと人とゴーレムと竜。
即席だが、確かな連合が風精脈の闇へと踏み込もうとしていた。




