第134話 白竜の言葉、喰う者の理由
白竜は空中で大きく体勢を崩し、嵐を引きずるようにして山の稜線へと降りた。
氷晶の鱗が砕け、吐息は荒い。
それでも、まだ生きている。
「追撃できる」
戦士長が言う。
「待て」
カイルが即座に止めた。
白竜の瞳を見ていた。
そこにあるのは、獣の狂気ではなかった。
白竜が、低く唸る。
だが次の瞬間、風が言葉を運んだ。
『……奪うな……』
エルフたちが凍りつく。
「今……喋った?」
ヒカルが小さく呟く。
『我は、喰わねば……消える』
白竜の声は、山に溶けるように響いた。
『風が、弱まった。この地は……枯れている』
嵐が、弱々しく揺れる。
キキは、はっとした。
「……風の流れが、昔と違う」
兄も頷く。
「里の風精脈が、年々細くなっている……
だから白竜は、山に縛られた」
『我は守護者だった。だが、守る力を失った』
白竜の声には、怒りよりも疲労と孤独があった。
カイルは、拳を下ろす。
「……だから、キキを“嫁”に?」
白竜は、ゆっくりと首を振った。
『違う。それは、エルフの決めたことだ』
キキが息を呑む。
『我は、ただ……風を、失いたくなかった』
沈黙。
誰も、すぐに言葉を出せなかった。
「……なら、解決策はある」
カイルが、静かに言った。
「風を喰う必要がない環境を作る」
エルフたちがざわめく。
「まさか……」
キキが気付く。
「ダンジョン技術……?」
「正解」
カイルは、巨兵ゴーレムの制御核を軽く叩いた。
「風精脈を人工的に再構築する」
白竜の瞳が、大きく開かれる。
『……そのようなことが可能なのか』
「可能にする」
カイルは即答した。
その時。
山の奥から、不穏な風のうねりが立ち上がった。
ヒカリが、ぴくりと反応する。
「……ちがう。この風、にがい」
カイルが顔を上げる。
「……来るな。まだ別の“何か”がいる」
白竜の問題は、まだ“本当の原因”ではなかった。




