第130話 巨兵出撃の決断
広間の外。
風精族の里を包んでいた重苦しい空気は、まだ完全には晴れていなかった。
だが“生け贄”という言葉が消えただけで、風は確かに動き始めている。
「白竜は、個体としても強大だ」
キキの兄、戦士長が山の方角を見据えて言う。
「空を支配し、風を喰らう。弓も魔法も通りにくい」
「知ってる」
キキから事前の知識を教わるカイルは即答した。
「だから正面から潰す」
里の者たちがざわつく。
「正面から……?」
「まさか、人間一人で……」
カイルは振り返り、空を指した。
雲の切れ間。
そこに浮かぶ、巨大な影。
飛行船形態で待機していた
**巨兵ゴーレム《ターレクス》**だった。
木々がざわめき、里の子供たちが息を呑む。
「……あれで?」
族長が、かすれた声で尋ねる。
「そう」
カイルは、迷いなく言い切った。
「白竜は“風”を喰らう」
一歩、前へ。
「なら、魔力を使わない力で殴る」
護衛ゴーレム、飛行型ゴーレム。
次々と周囲に展開する。
「巨兵ゴーレムは、魔力も使うが、基本は“質量と構造”だ」
ヒカルが頷く。
「純粋な物理圧力。風属性耐性を無視できる」
「その通り」
キキの兄が、少し不安そうに聞く。
「でも……巨兵一体で、ドラゴンと?」
「一体じゃない」
カイルは微笑んだ。
「分解・再構成・合体」
空で待機していたターレクスが、
音を立てて変形を始める。
腕部が分離し、脚部が展開。
補助フレームが再接続されていく。
「戦場に合わせて形を変える」
里のエルフたちは、言葉を失った。
「白竜が空を取るなら、空で殴る。地に降りるなら、地で潰す」
カイルは拳を握る。
「生け贄はいらない。必要なのは……」
視線を、キキに向ける。
「帰る場所を守る覚悟だけだ」
キキの兄が、深く息を吸った。
「……風精族の戦士は、前衛を務める」
「頼む」
族長も、杖を強く握り直した。
「……里の責任として、全面協力しよう」
ヒカリが、ぽつりと呟く。
「白いの、かなしい。でも……とめないと、もっとかなしい」
カイルは頷いた。
「終わらせよう。竜も、里も」
こうして決まった。
白竜討伐は巨兵ゴーレムによる正面撃破。
逃げない、差し出さない。
ただ、叩き潰す。




