第129話 空からの守護者、折れる誇りと説得
族長が倒れ、広間の空気が張りつめる。
「囲め!!」
号令と同時に、風精族の兵士たちが一斉に弓と槍を構えた。
木の柱の上、回廊の影、天井近くの枝。
完全包囲。
カイルは一歩も動かず、静かに息を吐いた。
「カイル……っ」
キキが声を震わせる。
「大丈夫だ。約束する」
その瞬間。
ゴォォォォ……!!
空が唸った。
天井を突き破る勢いで、
鋼鉄の影が落ちてくる。
護衛ゴーレム。
重装甲の巨体が、広間の中央に着地した瞬間、
衝撃波が床を割り、兵士たちはよろめいた。
続いて、二体、三体。
木の外、枝の上、回廊の隙間――
空から次々と降下する護衛ゴーレム。
「な……なんだ、これは……」
「ゴ、ゴーレム……?」
兵士たちの視線は、恐怖に染まっていく。
護衛ゴーレムたちは攻撃しない。
ただ、立っているだけ。
だがそれだけで十分だった。
魔力の圧、金属の威圧、そして“いつでも動ける”という沈黙の圧力。
兵士の一人が、槍を取り落とした。
……心が、折れた音だった。
「下げ」
低く、よく通る声。
兵士たちの間を割って、一人のエルフが進み出た。
キキとよく似た耳と瞳。
「兄……?」
キキの兄、風精族の戦士長だった。
「妹を生け贄にするなど、聞いていない」
兄は族長を一瞥し、静かに怒りを滲ませる。
「それが本当なら……俺は、その命令に従えない」
族長は歯噛みした。
「里を守るためだ……!」
そこで、カイルが前に出る。
「違う」
静かだが、はっきりと。
「それは“守る”じゃない。逃げるって言うんだ」
族長が睨む。
「貴様に、我らの何が分かる!」
「全部は分からない」
カイルは即答した。
「でも一つだけ分かる」
一歩、近づく。
「問題は白竜だ。キキじゃない」
「生け贄を出して、竜が満足したら終わりか?」
族長は答えない。
「次は?また風が減ったら?次の“嫁”は誰だ?」
兄の拳が、震えた。
「……それは」
「それが答えだ」
カイルは、キキの肩に手を置く。
「この子は、逃げ道じゃない。未来だ」
リーナが叫ぶ。
「キキは、いなくなったら、やだ!!」
ヒカルが静かに続ける。
「論理的に破綻している。犠牲を前提にした存続は、いずれ崩壊する」
ヒカリは、族長をまっすぐ見て言った。
「ダンジョンも、そうやって壊れる」
沈黙。
やがて、キキの兄が深く頭を下げた。
「……族長。この者の言葉は、正しい」
兵士たちがざわめく。
「白竜は、俺が討つ……いや」
兄はカイルを見る。
「共に討たせてほしい」
カイルは、少しだけ笑った。
「最初から、そのつもりだ」
族長は、長い沈黙の末、杖を落とした。
「……キキ。すまなかった」
その謝罪は遅すぎたが、それでも“命令”は、撤回された。
風が、ほんの少しだけ里に戻った。




