第127話 閉鎖的なエルフの里、リーナとヒカルがプンスカ事件
ターレクスがゆっくり地上へ降り立つと、エルフたちの視線が一斉にこちらへ集まった。
木の家の陰、風車の影、木の枝の上……
どこからともなく黄金色の瞳がちらちら覗いている。
「気配が……すごいね」
カイルが小声で呟く。
「うん……里の人、かなり警戒してる」
キキが苦い顔になる。
森の風がピリッと張りつめる。
訪問者を歓迎する雰囲気ではない。
「キキ、帰ったのか」
風の衣をまとった若いエルフが歩み寄ってきた。
表情は柔らかいが、目は鋭い。
「ラエル……久しぶり」
キキが控えめに返す。
「そちらは……人間か」
ラエルの視線がカイル一家に向けられる。
その目は探るようで、評価するようで、どこか距離
「キキ、悪いが外の者は、許可なく里の中へは……」
「えー!! なんでー!!リーナたち、わるいことしてないのに!」
リーナが即座に頬を膨らませ、ヒカルも同調して腕を組む。
閉鎖的な空気が、二人にはまるで許せないらしい。
「キキのともだちだよ! なんでダメなの!?」
「そうだ。キキの家なんだろ? なら家族の友達も歓迎すべきだ」
ラエルはヒカルの強気な言葉に少し驚いた顔をしたが、
すぐに眉をひそめた。
「……言葉遣いは立派だが、事情を知らないのだな。里は“外”に弱い。外の魔力、外の文明、人の欲。それを避けて生きてきたのだ」
「だからって、ぼくらを悪いみたいに言うのは変だよ」
ヒカルが落ち着いた声で反論する。
「そうだよね!」
リーナは全力でヒカルの背中に隠れながら同意した。
ヒカルは一応三歳(カイルが決めた設定)だが、口調はやたら大人びている。
そのギャップのせいで、ラエルは完全にペースを乱されていた。
「……キキ。なんというか……にぎやかな子を連れてきたな」
「ご、ごめん……でも、いい子たちなんだよ」
「わたしたち、いいこ!!」
「まちがいない」
リーナとヒカルが同時に胸を張るので、
キキはさらに顔を赤くする。
カイルが前に出た。
「俺たちはキキの大事な家族で、敵じゃない。旅の間だけでも、里の決まりに従わせてもらえれば……」
カイルの穏やかな声に、ラエルは少しだけ警戒を解いた。
「……分かった。長老に掛け合ってみよう。キキが連れてきた客人だ、無下にはできない」
「ありがとう、ラエル」
キキが礼を言うと、ラエルは一瞬だけ目を細めすぐに真面目な表情に戻る。
「だが、油断はするな。この里は……外の者に優しくできるほど、余裕がない」
その言葉は重く、風が震えたようにさえ感じた。
ラエルが先導する形で歩き出すと、リーナとヒカルはその背中に向かって眉間をしかめながらヒソヒソ。
「むー……なんか感じ悪い」
「閉鎖的、というやつだな。ぼく、嫌いだ」
「うん! わたしも!」
二人は「ぷんすかぷんすか」と実際に声を出して怒るものだから、キキは必死に小声で注意する。
「ちょ、ちょっと、静かに……!」
カイルと母は苦笑するしかなかった。
こうして、キキの故郷“風精族の里”での出来事が始まった。
家族は歓迎されていない雰囲気をひしひしと感じながらも、キキのために足を踏み入れる。
まだ誰も知らなかった。
このあと里で起きる“騒動”のことを。




