第126話 風の結界突破! 逆風の迷宮と案内役ヒカリ
エルフの森を包む白霧は、近づくほどに濃く、重く、そして風の圧力を帯びていった。
巨兵ゴーレムの飛行船形態の外板が、ギシリと軋む。
「わっ……風が逆流してる?」
リーナが手すりを掴み、揺れる髪を押さえた。
「これがキキの言ってた“逆風の迷宮”か……噂以上だな」
カイルは舵を握りしめながら低く唸る。
普通の風ではない。
森そのものが、外からの侵入を拒んでいるかのようだ。
「キキ、どうやって通るの?」
ヒカルが真剣な表情で尋ねる。
「本来なら、風の流れを読んで“逆らって”進むんだよ。風の精霊に認められた者だけが、逆風の中心へ向かって行けるの」
「理屈は分かるけど……」
その瞬間、強烈な横風。
飛行船がグラッと傾いた。
「きゃあっ!」 「うわっ!? お父さん、持って!!」
リーナとヒカルが同時に転びかけ、父の骸骨ゴーレムががっしりと2人を受け止めた。
その胸部には光文字が灯る。
『二人 安心』
「ありがとう、おじいちゃん」 「助かったよ」
だが、このままでは前に進めない。
その時、ヒカリがふわりと宙に浮いた。
「こっち。ヒカリ、風のみち、わかるよ」
淡い光をまとったヒカリが、霧の奥を指さす。
「え? 分かるの?」
キキが目を丸くする。
「うん。ここ、ヒカリにとって、やさしい風。“きちょうのにおい”がするの。だいじょうぶ」
「貴重……?」
母が小さく繰り返すが、ヒカリはふにゃっと笑うだけだった。
キキが小声で言う。
「ヒカリは精霊に近いから……精霊の通る道が“見える”んだ」
「なるほど……さすがヒカリだな」
カイルは納得し、操縦桿に力を込めた。
「よし、ヒカリ。案内頼む!」
「うん!」
ヒカリが進むと、不思議と風がすっと弱まっていく。
白霧の奥に、一本の細い風道。
それは普通の人間には見えない“空気の溝”が、ヒカリに触れられることで形を成していくようだった。
「すごい……やり方は違うけど、道が開いてる……!」
キキが息をのむ。
「ヒカリ、やるじゃん!」
リーナが両手を挙げると、ヒカリも真似して嬉しそうに手を挙げた。
「えへへ。リーナのため」
飛行船はその細い隙間を滑るように進み、逆風は徐々に弱まっていく。
そして。
風の渦の中心を抜けた瞬間、視界が一気に開けた。
霧の壁が割れ、柔らかな陽光が降りそそぐ。
「出た……!」
カイルが思わず声を上げた。
眼下には広大な樹海、大小の風車、木の幹に寄り添うように建つ翡翠色の家々。
まるで風そのものが形を取ったような幻想的な村が広がっていた。
「……キキの、故郷だ」
ヒカルが静かに呟く。
キキは胸の前でそっと手を握り、微笑んだ。
「うん……ただいま」
しかし、その直後。
「わぁぁぁぁー! すごい!!」 「すっごい森! すっごい家! すっごい風のにおい!!」
リーナとヒカルが興奮のあまり甲板を走り回り、キキは苦笑する。
「ふたりとも、まだ着地してないから……落ちちゃうよ……!」
「「えへへ」」
飛行船はゆっくり高度を落とし、
いよいよ“風精族の里”へと降りていった。




