第125話 空の上、キキの故郷の話
飛行型ゴーレムたちは薄雲を切り裂きながら、南東の空路を進んでいた。
目指すはキキの故郷、エルフの里。
巨兵ゴーレムは今日も飛行船形態となり、魔動機特有の低い振動音を響かせている。
甲板には、カイル、リーナ、クレア、骸骨ゴーレムの父、キキ、そしてヒカルが横並びで腰を下ろしていた。
「ねぇキキ、キキの家ってどんなところなの?」
リーナが身を乗り出し、期待に満ちた瞳を向ける。
キキは耳を揺らして少し考え、ふわりと微笑んだ。
「森の奥にあって、風の結界で守られた村だよ。大きな木の家とか、風車とか……人間の村とはきっと全然ちがうと思う」
「風の結界か。エルフっぽいなぁ」
ヒカルが感心したようにうなずく。
カイルも笑みを浮かべて口を開く。
「オレ、風魔法の練習で全然ダメだった時に思ったんだけど……キキの魔力って本当に風に馴染んでるよな」
「えへへ、まあね。風精族はみんなそうなんだよ」
「風精族……つまりキキたちはエルフの中でも特に風に特化した一族なのね」
母が整理するように問い返す。
「そうなの。うちの里は“風の精霊”と契約した長老が守っててね。外からは見えないし、風の迷宮みたいになってるから、選ばれた人じゃないと入れないの」
「迷わないと……入れない?」
ヒカルが奇妙そうに眉を上げる。
「うん。風の精霊に選ばれた人だけが“逆風”の流れを感じて、里に辿りつけるの。知らない人は……多分ずっと森の入口をぐるぐる回ると思う」
「秘密基地だね!!」
リーナはキラキラした目で歓声をあげる。
キキは思わず笑ったが、すぐ遠くの空へと視線を向けた。
「でもね……キキ、あの里であんまり馴染めなかったんだ」
「え?」
カイルが思わず聞き返す。
「魔法の才能はあったけど、研究ばかりで……みんなと遊ぶのは苦手で。仕事もしないで森にこもって魔法陣つくってたから、“変わり者”ってよく言われてたの」
カイルは横顔を見つめ、真っ直ぐな声で言った。
「変わってるから何だよ。オレはキキの研究、すげぇって思ってる。風魔法に詳しいおかげで、ゴーレムの改良にもいっぱい役立ったしな」
「カイル……」
カイルは優しく微笑む。
「うちに来てくれて、オレたちがどれだけ助かってるか分かってるか?」
その言葉に合わせるように、骸骨ゴーレムの胸部にぽっと文字が浮かぶ。
『キキ、誇るべき娘』
「ふふっ……ありがと、お父さん」
母も温かな声で続ける。
「あなたがいてくれたから、うちの生活はずっと楽になったわ。胸を張って帰りなさい」
「……うん。みんな、優しいね」
キキは照れ隠しのように耳を伏せたが、頬には静かな笑みが浮かんでいた。
その時、ヒカリがカイルの肩へ軽やかに飛び乗り、指を伸ばして甲板の先を指さした。
「もうすぐだよ。キキとおなじ匂いの風が増えてきた」
「匂い……?」
カイルが首をかしげる。
「ヒカリは精霊に近い存在だから、風の属性に敏いのよ」
キキが説明したところで、飛行船は高度を少し下げる。
前方には深い森と、それを覆うように淡い白霧の帯が広がっていた。
「……見えた。あれが“エルフの森”」
キキの声が震える。
期待、不安、懐かしさ……故郷を前にした者だけが抱く感情が、その声に宿っていた。
カイルは静かに寄り添うように立ち、優しく言った。
「キキ。オレたちがついてるからな」
「……うん。みんなを……里に紹介しなきゃね」
飛行船は風と霧が渦巻く“結界の入口”へ、ゆっくりと進んでいった。




