第121話 空を掴む魔力式飛行型ゴーレム、始動
第五層の海辺での一日が終わり、家族は森の家へと帰還した。
リーナとヒカリは寝息を立て、クレアはふたりを寝室に運び、家の中はゆったりとした静けさに包まれる。
その頃、カイルはひとり作業部屋にこもっていた。
机には遺跡で採取したモンスターの魔石、そして海底神殿の装置から解析したデータが広がっている。
「……ヒカリも、あの巨大魔石も。やっぱり全部“ダンジョンの構造”とつながってる……はずなんだけど」
資料をめくりながら、カイルはふと溜息をつく。
ヒカリの出生についても、ダンジョンの意志についても、分かったようで、肝心なところが見えてこない。
「……ん?」
手元の魔石がふわりと光った。
いや、光っただけじゃない。
ふわり、と宙に浮いた。
「……え? まって、浮いてる!? 浮いてるぞ!?」
慌てて手を伸ばし押さえようとすると、
魔石はカイルの手を避けるように、ゆっくり横へ滑る。
(魔力の制御……じゃない。これは……)
カイルは急いで魔力計測装置を起動し、魔石へ手をかざした。
すると、魔石はカイルの魔力に反応し、
まるで“紐で引かれるように”動きを合わせてくる。
「もしかして……ダンジョンの解析で触れた“浮遊制御式”……?」
海底神殿の浮遊装置、遺跡の防衛システム、そして巨大魔石の反応。
それらのデータが組み合わさって、カイルの魔力が新しい式を描き始めていた。
「……これ、『飛行』いけるかも」
胸が高鳴る。
カイルは急いで作業台へ移動し、メモ用紙へ展開式、魔力循環、推進方向の制御ルーンを書き殴る。
「推力は魔石の内圧、方向制御は……
いや、羽はいらない。魔力のベクトルを変えれば……」
そこからの数時間、カイルは寝食を忘れたように魔力制御の研究に没頭した。
深夜、作業場は明かりひとつ。
カイルの指先は止まらない。
そして、ついに机の上に小型ゴーレムの骨組みが組み上がった。
球体の魔石を中心に、四方向へ伸びる制御ユニットと、補助翼のような魔力板。
カイルは息をのみ、魔石に手をかざす。
「起動」
次の瞬間。
ふわぁああっと、小型ゴーレムは宙へ浮いた。
羽ばたきも、風もない。
ただ魔力の流れだけで、完全な浮遊を達成していた。
「よしっ……! よしッ!! まじか、本当に浮いた!!」
声が抑えきれず漏れる。
小型ゴーレムはさらに持ち上がり、天井近くで静止したあと、カイルの手の動きに合わせて滑るように移動した。
「これ……応用すれば、巨兵も、みんなも……空を飛べるぞ!」
その瞬間、カイルの頭の中に壮大な計画が閃光のように走る。
空母型の母艦ゴーレム。
空中索敵ゴーレム。
高速輸送型。
そして、空飛ぶ家。
想像は止まらなかった。
(ヒカリの正体は……まだ分からない。
でもこの力、もっと調べれば……きっと近づける)
小型飛行ゴーレムは、静かに、しかし確かな輝きを放っていた。
カイルが目指す新たな未来を照らすように。




