第120話 ヒカリと海の夜
夕暮れがゆっくりと第五層の海を染めていった。
空はオレンジから群青へ移り変わり、波は金色のきらめきを最後にそっと静まっていく。
海鮮料理をひとしきり楽しんだあと、家族は砂浜でくつろいでいた。
カイルは焚き火を起こし、流木を割って慣れた手つきで組む。
炎がぱち、と小さく弾け、暖かな光がみんなの顔を照らした。
「はぁ〜、お腹いっぱい」
リーナはクレアの膝を枕にしながら、満足そうにお腹をさすっている。
その横で、ヒカリは波打ち際に立ち、夜の海をじっと眺めていた。
水面は淡い青白い光を帯びていて、まるで海そのものが静かに呼吸しているようだった。
カイルがそっと近づく。
「ヒカリ、どうした? ずっと海を見てるな」
ヒカリは少し考えてから、小さく口を開いた。
「……おぼえてるの。ずっと前、海に似た場所にいたこと。ぜんぶ、ぼやけてるけど……さみしくて、でもあたたかかった」
「それって、ダンジョンの記憶か?」
キキが目を輝かせて身を乗り出す。
ヒカリは首をかしげた。
「わからない。でもね……」
彼女の瞳が、波に揺れる光を映してふわりと輝く。
「いまは、ぜんぜんさみしくない。だって、みんながいるから」
母が優しく微笑んで近づき、ヒカリの肩に手を添えた。
「家族が増えるって、こういうことなのかもしれないわね」
ヒカリは照れたように笑う。
その小さな笑顔に、リーナがむくりと起き上がり、勢いよく抱きついた。
「ヒカリはね、わたしの妹なの! ずっといっしょなの!」
「……うん。リーナ、あったかい」
カイルはその光景を見ながら、胸の奥がほわりと温かくなるのを感じていた。
不思議な力を持つ存在だけれど、ヒカリは確かに‘’家族のひとり‘’になっている。
焚き火の音、潮騒、夜風。
そのすべてが穏やかに交じり合い、
第五層の海にゆっくりと夜が降りていった。
カイルは火を見つめながら、静かに思う。
今なら、どこまでだって行ける気がする。
その隣で、リーナとヒカリが眠気に勝てず寄り添い、母が毛布を掛けてやる。
家族の温かい気配に包まれながら、海の夜は深く、優しく、静かに更けていった。




