第119話 海辺のほのぼの回
古代遺跡の巨大な魔石の前で、キキとカイルは完全に研究モードに入っていた。
表面に走る紋様を写し取り、魔力の循環を読み取り、時おりヒカリに質問を投げては顔を寄せ合って興奮する。
「この反応……やっぱり常識外れだよ!」
「ヒカリを生んだ存在……ダンジョンの核そのものかもしれない……!」
そんなふたりの背中をじっと見つめていたリーナは、床にぺたりと座るとほっぺをぷくっと膨らませた。
「ねぇ〜、カイルにーちゃん、キキ〜。もう飽きた〜〜!」
クレアが苦笑しつつ、娘の髪をそっと撫でる。
「まあ、ずっと石を見てるだけじゃ楽しくないわよね」
その声に、ヒカリがぱっと顔を上げた。
「……第五層、行く? 砂のあと、海。きれいで、涼しいよ」
リーナの目が、一瞬で星みたいに輝いた。
「いく!! いくいくいくっっ!!」
背中を引っ張られ、カイルとキキもようやく研究を中断するしかなくなった。
砂の古代都市、宝物庫の先にあったのは、まるで別世界のような景色だった。
青い海が静かに波を寄せ、白い砂が一面に広がっている。
ダンジョンとは思えない穏やかな光景に、リーナは歓声を上げて走っていく。
「わぁぁぁ! 本物の海みたい!!」
クレアとキキはその後をゆっくり追い、ヒカリは潮風を受けて気持ちよさそうに浮かんでいた。
そのとき、海面がぼこんっと盛り上がる。
巨大なハサミを持つカニの魔物。
うねる触腕を持つタコ型の魔物。
つぶらな目をした魚の魔物。
どれもこちらを見ると、どことなく“期待している”感のある目でにじり寄ってきた。
カイルが反射的に身構えるが、ヒカリがにっこりして言う。
「だいじょうぶ。海の幸、やさしいよ。……食べてほしいんだって」
「えっ、食べられるの……?」
キキが目を丸くする。その横で、カイルは真剣な表情で説明した。
「第五層の魔物は“食材”になる。調理方法知ってるから多分……全部うまい」
魔物たちも‘’任せて!‘’と言わんばかりに、勝手に茹で上がったり、絶妙な焼き加減を披露したりし始めた。
タコに至っては、自分で炭火を出して勝手に焼かれていくという謎の姿勢を見せる。
カイルは腕まくりを止め、ドン引きした。
やがて、砂浜には豪華な海鮮料理がずらりと並んだ。
リーナは焼き立てのカニ脚を抱えて目をきらきら輝かせ、「いただきまーすっ!!」と嬉しそうにかぶりつく。
クレアは潮風に髪を揺らしながら微笑み、キキはタコ料理の魔力構造まで研究し始め、カイルは「これ毎日あったら漁師いらないだろ……」と呆れ顔で言いつつも、しっかり味わっていた。
ヒカリは波打ち際で水に足をつけて、静かに海を見つめている。
その横顔は、どこか安らぎに満ちていた。
「……みんな、よろこんでる。よかった」
その小さなつぶやきに、家族みんながふわりと笑った。




