第117話 封印の声、ヒカリの秘密
ヒカリが開いた“本来存在しないはずの通路”を進むと、空気は砂漠より静かで、けれど何かがざわついているようだった。
「なんだか……背中がムズムズするわね」
母がリーナを抱き直しながら言う。
「りーな、さむいのやだ」
リーナはカイルの手をぱしっと掴む。
「大丈夫、すぐ終わるからな」
カイルは優しく撫でて安心させる。
キキは腕をさすりながら周囲を観察する。
「魔力の波動……周期不明ね。まるで脈打ってる」
父の骸骨ゴーレムが胸に文字を灯す。
『波動源、多数』
「多数!? 全部敵だったら泣くわよ私!」
キキが叫ぶ。
そのとき。
ヒカリが急にぴたりと立ち止まった。
「……しゃべってる」
母が反射的にリーナを抱き寄せる。
キキが困惑しながらヒカリに問う。
「ヒカリ、誰が?」
「かいだんのしたのひと。ずーっとねむってるひと。ヒカリに、なまえよんでって……いってる」
「名前を呼んで……?」
カイルが息を呑む。
リーナはヒカリの横に寄り、首をかしげた。
「ひかり、なにきこえるの?」
「うーん……“さみしいよ”って。“こわかったよ”って」
キキとカイルは同時に青ざめる。
(この子……封印の“声”まで聞こえるの!?)
(リーナは絶対分かってないけど……!)
ヒカリは困ったように笑った。
「でもね、よんじゃダメなの。おきちゃったら“いっぱいたべる”から」
母は即座に青ざめる。
「た、食べるって……何を?」
「なんでも。ひかりも、りーなも、みんなも」
リーナはびくっとしてクレアの背に隠れた。
「やだー! たべられない!」
「だ、大丈夫よ! お母さんが絶対守るからね!」
母がぎゅっと抱きしめる。
「だいじょうぶだよー」
ヒカリはにこっと笑った。
「ヒカリ、よばないもん」
通路の最奥、視界が一気に開けた。
「なんだここ……」
カイルが思わず呟く。
そこは階段状の巨大な空洞。
中央には巨大な封印陣が浮かび、静寂が異様な圧を持って広がっていた。
「……神殿みたい」
母がリーナの髪を落ち着かせながら言う。
「ちがうよー。ここね、“ヒカリのおともだち”のおうち」
ヒカリがさらりと言う。
「おともだち!?!」
キキが頭を抱えた。
ヒカリは封印陣を見つめ、ぽつりと言った。
「ひとりで、さみしかったんだって。まっくらで、ひとりで、こわかったって」
封印陣が淡く脈動する。
「反応してる……ヒカリに?」
カイルが息を呑む。
ヒカリは胸に手を当てた。
「ヒカリ、てをつないだの。そしたら、ね……ことば、ちょっとだけ、わかるようになった」
「だ、誰と手をつないだの?」
母が震える声で問う。
ヒカリは封印の中心。
さらに下の暗闇を指差した。
「あそこにいる“おおきいひと”。ヒカリより、もっともっとふるいひと」
「古い……?」
「うん。でもね、“おきちゃだめ”だから。
ヒカリ、ずっといっしょにねんねしてるの。だからいまは、だいじょうぶ」
家族全員が固まる。
(((ヒカリ……封印を“寝かしつけてる”の!?)))
父が堂々と胸に文字を浮かべる。
『娘、規格外』
「だからそれ言うなって!!!」
カイルが叫ぶ。
リーナはヒカリの服をひっぱる。
「ひかり、おともだち……いいひと?」
「……いいひと。こわいけど、さみしいひと。ヒカリ、ぎゅーってしてるから、ねんねしてるよ」
リーナは安心したように笑って言う。
「じゃあ……こわくない!」
クレアは胸を撫で下ろした。
「本当に……よかった……」
封印陣は金色の光を落ち着かせ、空気のざわつきが完全に消えた。
「安定してる……ヒカリが静めてるのね」
キキが感心したように呟く。
「つぎ、いけるよー」
ヒカリが元気よく手をあげた。
父が胸のディスプレイに表示する。
『封印部、安定。進行可能』
「軍隊みたいに言わないでくれ!!」
カイルが叫んだ。
だが確かに、家族と仲間はこの先へ進む準備が整っていた。




