第116話 ヒカリが恐れるもの、宝物庫の封印
宝物庫の奥。
ヒカリが“こわいの、ある”と言った瞬間、カイルもキキも父も、肌がひやりとする空気を感じ取った。
「ヒカリ……“こわいの”って、どういう意味?」
カイルはしゃがんでヒカリの目線まで降りる。
ヒカリは小さく首を振って、カイルの服をぎゅっと掴んだ。
「うごいちゃだめなの。ここ、ながいこと、ねてるの。おこしちゃ……だめ」
「封印……ってこと?」
キキが呟く。
ヒカリはこくりと頷く。
その瞳は、いつもの無邪気さとは違い、わずかに怯えていた。
「お父さん、何か分かる?」
カイルが振り返ると、父の骸骨ゴーレムは胸に文字を浮かべる。
『危険。だが詳細不明』
「……分からんのかい!」
キキは肩をすくめて宝物庫の壁に手を当て、魔力を流してみる。
「うわっ……ここ、めっちゃ層が深い。
古代魔法が何重にも重ねられてる。
ダンジョンの防衛機構というより……
“外に出さないための封印”っぽいね」
「外に……?」
カイルの喉が鳴る。
ヒカリがそっと言葉を続ける。
「ここね……ヒカリの“おうち”じゃない。
つくられたダンジョン、まもるためのダンジョン。でもね……いちばんしたには……べつのもの、いる」
「別の……?」
ヒカリは指で“まる”を作り、ぎゅっと握りしめた。
「ねむってるの。ずっとずっと、ながいこと。でも……おなか、すいてる。めをさましたら……ぜんぶ、たべちゃう」
キキが背筋を震わせる。
「なにそれ!? そんな危険な……!」
「ヒカリは大丈夫なの?」
カイルは心配そうに尋ねる。
ヒカリは胸に手を当て、安心させるように微笑んだ。
「ヒカリ、だいじょうぶ。ここの“ほんとうの主”じゃないけど……おててつないだの。だから、こわくない」
「おててつないだ!?」
キキが素で叫ぶ。
「ど、どういうこと!?ダンジョンの深層存在と!? 幼児が!?」
「ヒカリ天才……?」
カイルは混乱しながら呟く。
父は胸に大きく文字を浮かべる。
『娘、未知領域』
「「ほんとそれ!!」」
ヒカリは宝物庫の奥の祭壇へ歩き、
そっと手を触れた。
すると、宝物庫全体が淡く震え、
奥の封印装置に淡い光の輪が広がる。
「ヒカリ?」
カイルが身を乗り出す。
「だいじょうぶ。これはね……“あんしんしてね”って、いってるの」
光はヒカリの掌で丸く集まり、
やがて胸のコアに吸い込まれた。
「ひかり……まもるよ。だからね、さきに、すすめるの」
「……先? どこへ?」
カイルが問う。
ヒカリは宝物庫の奥、封印装置とは反対側にある壁を指差した。
「あそこ、かべにみえるけど……ほんとは、みち。ヒカリがとおすよ」
次の瞬間、壁の紋様がひとりでに光り、通路が開いた。
「通路が……!」
「ヒカリ……これ全部、あなた……?」
ヒカリは胸を張って言う。
「ひかり、えらい!」
キキは額を押さえた。
「……もうこの子、ダンジョンより強いんじゃない?」
「キキ、それ言っちゃダメな気がする……!」
通路の向こうは、第五層のさらに奥“本来は存在しないはずの階層”へと続いていた。
ヒカリは振り返ってみんなを見上げる。
「いこう?こわいの、いないから。ひかり、まもるから」
その笑顔は、どこまでも純粋でしかし、どこか“覚悟”を帯びていた。
カイルは深呼吸し、頷く。
「……よし。行こう。ヒカリが守ってくれるなら、きっと大丈夫だ」
父は胸に大きく文字を灯す。
『進軍開始』
「いや、軍じゃないけどね!? 探検だからね!?」
でも、みんな笑った。
どこか不安を抱えつつも、確かな期待と共に。
こうして一行は、ダンジョンの“さらに深い闇の奥”へと足を踏み入れるのだった。




