第110話 ヒカリが語る“ダンジョンの心”
昼下がりの森の家。
窓から差し込む光が、柔らかく木の床を照らしていた。
リーナは昼寝の最中で、スヤスヤと寝息を立てている。
母はその傍らで裁縫をし、父は静かに椅子に座っていた。
カイルとヒカリは外のテラスに出て、並んで腰掛けていた。
光の髪を持つ少女ヒカリは、庭に咲いた白い花を指先で触れて、淡く光らせている。
「ヒカリ……ひとつ、聞いてもいい?」
「うん。カイルにーちゃんの質問なら、なんでも」
カイルは少し言葉を選んでから、静かに口を開いた。
「……ダンジョンって、なんだったんだろう。お前がいた“場所”のこと、覚えてる?」
ヒカリの目がふっと遠くを見るように細められる。
その瞳の奥に、かすかな青い光が揺れた。
「うん……少しだけ。あそこはね、“心が眠る場所”だったの」
「心が眠る?」
「うん。昔ね、誰かが“守りたいもの”をしまったの。たくさんの思いが積もって、そこに形ができて……それがダンジョンになったの」
カイルは息を呑む。
「じゃあ、ダンジョンって、ただの迷宮じゃないってことか」
「うん。わたしはその“思い”の欠片。だから、寂しかったの。みんな眠ってて、誰も声を聞いてくれなかった」
ヒカリは自分の胸に手を当てる。
「でも、カイルにーちゃんたちが来てくれた。それで……あの場所の“心”は安心したんだと思う。“もう、守らなくていい”って」
風が通り抜け、ヒカリの髪が光の粒になって揺れる。
カイルはその光景を見ながら、ぽつりと呟いた。
「……だから、泣いてたんだな。あのコア」
「うん。でも、もう泣かない。今はここが“わたしのダンジョン”だから」
ヒカリはそう言って、優しく笑った。
その笑顔に、カイルは自然と笑みを返す。
家の中からリーナの寝言が聞こえる。
「……ひかりー……まま……」
二人は顔を見合わせて笑い合った。
静かな午後、森の光とともに、ヒカリの“過去”が少しずつ明らかになっていく。




