第106話 ヒカリのはじまり
森の家は、久しぶりに静寂を取り戻していた。
長い冒険の疲れがようやく抜け、母はリーナを抱きながら穏やかに昼寝をしている。
外では、父の骸骨が剣士の真似事をしており、胸には『我、剣練習中』の文字。
カイルは作業台に腰を下ろし、机の上にそっと“ヒカリ”あのダンジョンコアを置いた。
半透明の結晶の中で、淡い光がゆらゆらと揺れている。
「……おはよう、ヒカリ。調子はどう?」
光が一度、ぽん、と脈打った。
まるで「おはよう」と返しているように見える。
「ふふ、まだ言葉は喋れないけど……ちゃんと分かってる感じだね」
キキの解析によれば、ヒカリの中枢は“学習型魔石”。
周囲の情報を記録し、模倣できる特別な存在だという。
カイルは思う、時間をかければヒカリを人間のように“育てる”ことができるかもしれない。
観察を続けていると、木の窓が開き、キキが顔を出した。
「ねぇカイル、また研究? せっかく平和なんだから休みなよ」
「うん。でも……これ、放っておけなくて。ヒカリはきっと、生きてるんだ」
その言葉に反応するように、ヒカリの光がふわりと柔らかく膨らむ。
まるで“嬉しい”という感情を伝えるようだった。
キキは少し照れくさそうに頬を掻く。
「……ほんと、君って優しいよね。ゴーレムとか骸骨とか、あとダンジョンコアまで、全部仲間扱い」
「だって、家族だから」
「家族、ねぇ……。まぁ、そういうの、嫌いじゃないけどさ」
そのとき、母がリーナを抱いて部屋に入ってきた。
「カイル、リーナがね、ヒカリを見たいって」
リーナが小さな手を伸ばす。
すると、ヒカリの光がゆっくりと形を変え、空中に淡いハートが浮かび上がった。
「……え、これ……ハート?」
「ヒカリ、もしかしてリーナに反応したの?」
カイルが驚くと、ヒカリは小さく明滅してまるで頷くように光った。
母がそっと微笑む。
「ねぇカイル……この子、本当に“赤ちゃん”なのかもね」
「え?」
「生まれたばかりの、光の命。母の勘ってやつよ」
カイルはヒカリを見つめた。
確かに、どこかあたたかくてまるで息をしているようにも感じられる。
家族が、また一人増えた。
そんな実感が、静かな午後の空気にゆっくりと溶けていった。
外では、父が胸に『我、昼食要望』と表示を出し、キキが笑いながら叫ぶ。
「もう~、骸骨のくせに食欲あるの!?」
穏やかで、不思議に賑やかな日常。
カイルの新しい日々が光とともに、静かに始まっていった。




