第100話 代わりの心臓、帰還の航路
海底神殿の奥。
ダンジョンコアが抜き取られた中心部は、まるで命を失った心臓のように沈黙していた。
光も揺らぎもなく、海の底にあるのに息苦しささえ感じるほどの静けさ。
「外部制御機を付けないと……ここを空っぽのままにしておくのは……」
カイルが小さく呟いた。
彼の腕には、青く光る“寂しげなダンジョンコア”が抱かれている。
しかしその横で、もう片方の手はすでに新たな作業を始めていた。
「カイル、それ……まさか……」
キキが目を丸くする。
「うん。魔石の連結だ。この神殿を支えていたコアの代わりを俺の手で造る」
カイルは腰のポーチから大小さまざまな魔石を取り出し、慎重に空間へと浮かべていった。
父の胸部が光り、援護のように文字が浮かぶ。
『我、制御支援開始。魔力安定率、上昇中。』
キキも息を整え、魔法陣を展開する。
海中の流れが穏やかに渦を巻き、魔石たちを中心に光が集まっていく。
「……連結、開始」
カイルの指先が走り、無数の光の糸が魔石を繋ぎ合わせていく。
ひとつ、またひとつと結合していくたびに、光が強くなり、やがてそれは一つの“人工ダンジョンコア”新しい心臓へと変わっていった。
「よし、安定した……!」
カイルは人工コアを神殿の中心に静かに設置した。
すると、周囲の壁面が淡く脈打ち、
まるで新たな生命が息を吹き返したように海底神殿が震える。
「……ちゃんと、動いてるね」
キキがほっと息をつく。
父の胸部にも、誇らしげに文字が浮かぶ。
『我らの心臓、完成。』
カイルは微笑んで頷いた。
「これで、この神殿ももう寂しくない。俺たちが持ち帰るのは“本物”の方だ」
抱えている青いコアが、まるで答えるように小さく光を放った。
それは、安心したようにも、感謝しているようにも見えた。
こうしてカイルたちは海底神殿を後にし、上層へと戻るために水中型ゴーレムへと乗り込んだ。
浮上する途中、巨大な影がゆっくりと海底を見送る。
人工コアを宿した神殿は、静かに、そして確かに新しい鼓動を刻み始めていた。
海面を破った瞬間、船型に変形した巨兵ゴーレムが待っていた。
母とリーナが甲板から手を振っている。
「おかえり!」
カイルは小さく手を振り返しながら、
抱えたコアを見下ろして微笑んだ。
「……帰ろう、俺たちの家へ」
海面を滑るように、巨兵の船体が進み始めた。
夕陽が海を赤く染め、その中で、コアの光はまるで家族の一員のように暖かく揺れていた。




