第99話 寂しきコアの願い
海底神殿の最深部。
静寂が戻った空間に、淡く青い光だけが脈打っていた。
その中心に浮かぶのは、拳ほどの大きさになったダンジョンコア。
先ほどまで暴走していたとは思えないほど、今は静かに、穏やかに輝いている。
「……まるで、眠ってるみたいだな」
カイルはそっと手を伸ばした。
触れた瞬間、ほんの一瞬だけ微弱な思念が流れ込んでくる。
『……また、ひとりになったのね。』
声は儚く、風のように薄れた。
カイルはその小さな光を見つめ、胸の奥に何かが刺さる感覚を覚えた。
「……寂しい、か」
隣にいたキキが、珍しく口数を減らし、静かに頷いた。
「このコア……意思があるのね。カイル、どうするの?」
「置いていけるわけがないだろ。……ここに残したら、また孤独の中で眠り続けることになる」
父の胸部の光が点滅する。
『持ち帰るのか? 危険かもしれんぞ。コアはダンジョンの心臓だ。取り外せば、この階層の構造が崩壊する可能性がある。』
「大丈夫。封印は安定してる。コアの力を抑える外部制御器をつけて持ち帰れば、安定したまま維持できるはずだ」
そう言ってカイルは腰の工具ベルトから部品を取り出し、小さな装置を即興で組み上げた。
それはまるでコア用の保育器のような形状だった。
キキが笑みを漏らす。
「……なんか、赤ちゃんみたいね」
「まぁ、育て直すつもりだよ。暴走も寂しさも、もうさせたくない」
装置が完成し、カイルは慎重にコアをその中に収める。
コアは微かに光を強め、ほんの一瞬、カイルの方へ小さな光の粒を飛ばした。
『ありがとう……一緒に、行ってもいい?』
その言葉を最後に、コアは静かに眠りにつくように光を落とした。
父が短く表示する。
『我、賛成。家族、増員。』
「ふふっ……父さん、それは違う意味で誤解されるやつ」
キキが吹き出しながらも頷く。
「でも、いいと思うわ。あの子、寂しそうだったしね」
カイルは頷き、光を帯びたコアを抱えた。
「よし……帰ろう。母さんたちに、新しい“家族”を紹介しないとな」
こうしてカイルたちは封印された海底神殿を後にし、ダンジョンの心臓“ダンジョンコア”を連れ帰ることにした。
その小さな青い光は、彼らの帰還を見守るように、かすかに震えていた。




