「君だけを愛している」などと、しらじらしいことを言った浮気王子に、『浮気をしたら死ぬ』呪いをかけた
公爵令嬢エリーシャは、王子ラッガルとの婚約が決まっていた。
しかしエリーシャは知っていた。
ラッガルが浮気をしていることを。
相手は伯爵令嬢だ。
そしてラッガルの気持ちは、既にエリーシャではなく伯爵令嬢に傾いている。
それなのにラッガルはエリーシャに対し……
「俺は、君だけを愛している」
などと甘い言葉をささやくのだ。
だからエリーシャは、ラッガルに呪いをかけることにした。
約束を破ったら死ぬ――――という呪いだ。
エリーシャはラッガルに、以下のように持ち掛ける。
「では約束をしてくださいませ。わたくしだけを愛すると。他の女性を愛したりはしないと」
「ああ、もちろんだ。君だけを愛する。浮気など、決してしたりはしない!」
もっともらしいセリフを吐くラッガル。
そんなラッガルに微笑みかけつつ、内心でエリーシャは、冷たい視線を送っていた。
<ラッガル視点>
果たしてエリーシャの疑いは正しかった。
ラッガルは、エリーシャだけを愛すると誓ったその日に、浮気相手のもとへと向かっていた。
浮気の相手は伯爵令嬢リーナである。
ラッガルは、リーナの屋敷がある場所へ向かいながら、思った。
(エリーシャを愛していないわけじゃない)
そう。
ラッガルは、エリーシャのこともちゃんと好きなのだ。
飽きたわけでも、愛想が尽きたわけでもない。
リーナと等しく愛している。
(俺は――――どちらも同じぐらい、本気なのだ!)
エリーシャと会っているときも。
リーナと会っているときも。
どちらも本気だ。
浮気をしているのではない――――両方を愛しているだけだ。
何も問題はない。
そう思いながらラッガルは、リーナの屋敷へと早足で向かう。
屋敷にたどり着く。
さっそく中に入れてもらい、リーナの部屋へとあがった。
「まあ、今日も来てくれましたのね、ラッガル様」
「ああ。君にどうしても逢いたくてな。つい来てしまったよ」
と甘い言い方をしながら、ラッガルが微笑む。
リーナが尋ねた。
「でも、エリーシャ様のことはよろしいのですか? 最近、エリーシャ様のことを放置気味ではありませんか?」
「彼女のことは、どうでもいいさ。俺は、君のことを一番愛しているんだから」
王子は思った。
(こうは言ったが、もちろんエリーシャと会ったときは、エリーシャのことを一番愛している。俺は、そのときそのときで本気なのだ!)
リーナは思った。
(ふふ。殿下は私にぞっこんね。このまま殿下に嫁ぐことができれば、伯爵家と王家のつながりができる。エリーシャみたいなブスは蹴落として、絶対に王子と婚約してやるわ!)
それぞれ腹の底では、自分に都合の良いことを考えている二人だった。
そして。
「一番愛している、とおっしゃるなら、言葉ではなく行動で示してほしいですわ」
とリーナは言った。
キスをしろ、という要求である。
「君はまったくいじらしいな」
とラッガルは微笑みながら、リーナの肩に手を置く。
そして、熱い口づけを交わした。
「ちゅっ……」
最初はソフトに。
やがて絡みつくように。
二人は熱く燃え上がる……はずだった。
「!!!???」
そのとき。
ラッガルの胸が急に、締め付けられるように苦しくなった。
息ができないような。
呼吸困難になるような。
異常な状態に陥っていく。
「はっ、はっ、はっ……」
びくん、びくんとラッガルが痙攣する。
様子がおかしくなり始めたラッガルに、リーナが不安そうな顔を浮かべる。
「ラ、ラッガル様……?」
「はっはっひっはひっはっはっはっはっひっはっはっはっひっはひっ」
狂ったような呼気を漏らしながら、ラッガルが倒れた。
ラッガルは全身に暴れ狂う痛みと、胸を締め付ける苦しみにもだえる。
それはエリーシャの呪い。
ラッガルがリーナと浮気のキスをしたために、死の呪いが発動したのである。
そして。
「あ……ああああああああァァァアッ!!!!!?」
絶叫を上げ、血を噴きだしたラッガル。
ぴくりとも動かなくなる。
「ラ、ラッガル……様? ラッガル様!!?」
リーナが叫ぶ。
ラッガルは、返事しない。
息絶えていた。
そのことに気づいたリーナは、衝撃に放心してしまうのだった。
<エリーシャ視点>
そして翌日。
ラッガルの死が、公表された。
原因不明の変死だ。
約束を破ったことで、呪いが発動したのだと、エリーシャだけが知っていた。
(君だけを愛する……などと言っておいて、ものの1日で約束を破るとは。詐欺師みたいな男でしたわね)
とエリーシャは吐き捨てるように、内心でつぶやいた。
王子の死を悲しむ気持ちなど、もちろん無かった。
ところで。
ラッガルの死んだ場所は、伯爵令嬢リーナの屋敷であった。
まさに伯爵令嬢のもとに通い、浮気のキスをした瞬間に死んだのだ。
そのため、ラッガルの死に関して、リーナに容疑がかかった。
何らかの方法でリーナが、ラッガルを殺害したのではないかと思われたのだ。
さまざまな審議の末、伯爵令嬢リーナには王子殺害の罪で、有罪判決が下された。
判決は死罪である。
伯爵令嬢リーナは処刑台のうえで……
「自分は何もしていません。信じてください!」
と、最後まで泣き叫んでいたらしいが……
誰も彼女の無実を信じることなく、処刑は実行された。
浮気者の王子と、浮気相手の令嬢は、こうして二人とも死に絶えたのだった。
―――――――完
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