第89話『セオスト祭りでの|依頼《おしごと》』
昨日は桜たちと祭りを楽しんだが、今日は依頼があり、冒険者として仕事をする事になった。
ヴィルヘルムさんが色々と交渉をしてくれたらしく、いくつかの貴族家をまとめて護衛するという事になり、俺とヴィルヘルムさんとアレクシスさんで仕事をこなす。
「はじめまして。若き英雄。会えて嬉しいです」
「こちらこそ。本日はよろしくお願いします」
「おや。丁寧な子だね! アレクシス君とは大違いだ」
「わははは」
笑い始めた貴族のお偉い方に俺は曖昧な笑顔を浮かべてから、その場を離れた。
そして、少し離れた場所で非常にめんどくさそうな顔をしているアレクシスさんの元へ向かう。
「チッ。だるい仕事だぜ」
「アレクシスさん……!」
「せっかくの祭りだってんのに、働かせやがって」
「まぁまぁ今日だけなんですから」
「へいへい」
アレクシスさんは心底やる気がないという様子で、何とも困ってしまう。
が、まぁ仕事は仕事だ。
俺もそれなりに頑張らないとなと気合を入れるのだった。
まぁ、給料の払いは良いし。
「あー! いけないんだー! アレク君ってば、そんな事言って―」
「いけないんだ」
「……面倒な連中が来たな」
「あ、こんにちは! 本日はよろしくお願いします! リョウ様!」
「あぁ、うん。よろしくね。シャーロットちゃん」
「ほらー! リョウ君はちゃんとやってるよー! アレク君ばっかりー! いけないんだー!」
「リョウはガキと話してるのが好きっていう珍しい人間だからな。お前らみたいな騒がしいのとも話せる。それだけの事だ」
「なにー! 騒がしいのって! 失礼しちゃう!」
ソラちゃんはアレクシスさんに突っかかり、アレクシスさんは心底面倒だという様な顔でため息を吐いた。
そして、ソラちゃんから俺へと視線を移し、ハッとした顔をしてから笑みを作る。
なんだ? 何か嫌な予感がするが。
「あぁ、そうだな。人間、一番得意な事を仕事にするべきだよな」
「……何の話ですか? アレクシスさん」
「ガキどもの相手はお前に任せた。っていう話だよ。リョウ」
「……」
何とまぁ呆れた提案である。
しかし、俺は別に円滑な仕事が出来れば何でもいいので、ソラちゃん達に意見を伺おうとした。
が、レイちゃんが俺の服を掴み、シャーロットちゃんが微笑みながら傍にスッと移動し、ソラちゃんがうんうんと頷いていた為、どうやら俺の仕事は決まった様だった。
「決まりだな。じゃあ俺は向こうの連中の護衛してっから。お前はそっちを頼んだぜ」
「……分かりました」
「せいぜい頑張ってくれ」
「アレクシスさんもね」
「はっはっは。まぁガキの相手するよりは楽だよ。こっちは人間の言葉が通じるからな」
「むー!」
「むー」
「じゃあな!」
アレクシスさんは笑顔でこの場を去ってゆき、ご老人の多い場所へと向かっていった。
ヴィルヘルムさんは若い方々の相手をしているし、ソラちゃん達の相手が出来る人間は俺しかいない。
ならば、この後にやるべき事はほぼ決まった様な物だった。
「じゃあ、まぁ今日は俺から離れない様に。迷子になっちゃうからね」
「大丈夫だよ! ソラちゃんは!」
「レイちゃんも大丈夫」
「私はずっとお傍に居ますね」
なんとも先行きが不安な状態ではあるが、気を付けて進むしかあるまい。
という訳で、俺たちは祭りへと向かい……会場に付いてから即時、貴族の方々と離れて行動を開始した。
無論、ソラちゃん達の希望でだ。
俺としてはアレクシスさんにすぐ助けを求められる位置が良かったが、お客さんの指示には逆らえないのだ。
「ねーねー。何食べる?」
「おいしい物が良い」
「それはそうだけどさー。色々あるじゃん? 美味しいにもさ」
「じゃあリョウくんのオススメ」
「俺のオススメ?」
「あ! 私もリョウ様の好みが気になりますわ!」
「好み。好みかー」
何とも難しい話だと思いながら俺は、左右を見渡し、どんな店があるのかと探す。
しかし、大通りの辺りはどれも似たような店ばかりで、コレという物は無かった。
ならば、仕方がないかと冒険者組合の方へ向かい、建物の前にある店に声を掛けるのだった。
「どうもー」
「いらっしゃい。昨日に続いて今日も来てくれたのか。嬉しいぜ」
「まぁ、祭りで一番信用できる店ですからね」
「そりゃ嬉しいね。今日はどうする? 昨日と同じ焼き鳥サンドじゃ面白くないだろ?」
「そうですねぇ。何か別の商品ありますか?」
「あるぜ。お前さんが捕まえてきたジャイアントボアを使った奴がな」
「ほぅ。どんな料理なんですか?」
「ジャイアントボアの一番うまい所をよ、大胆に切って、焼いて……特製ソースをかけた奴とか、後は鍋料理にした奴とかだな。どっちが良い」
「んー。そうですねぇ」
俺はソラちゃん達に振り返って、どちらが良いかと問うた。
すると皆、焼き料理の方が良いというので、適当な大きさの皿を借りてその上に小さく切った肉を乗せてもらうのだった。
「あそこのテーブル借りても良いですか?」
「あぁ。構わねぇよ」
そして、近くにあったテーブルに皿を持って行き、そこでソラちゃん達に小皿やフォークなどを用意して食べてもらうのだった。
一生懸命食べるソラちゃん達を見守りつつ、俺は周囲をそれとなく見ていたのだが……この世の闇を背負ったような店があり、そこへ視線を向けると、例の冒険者ご飯を出している店であった。
「……やはりだめだったか」
「どうしたの? リョウ君?」
「いや、知り合いの店がね。どうも売れてないみたいで」
「えー! かわいそう!」
「可哀想ですわ」
「どうにかできないの?」
「どうにか。どうにかか」
俺は闇を背負った冒険者に一瞬殺気を飛ばして、ハッとした顔をして顔を上げた知り合いを手で呼び寄せた。
俺から向こうへ行っても良いんだけど、今は仕事中だし。
護衛対象から離れるわけにはいかないからね。
「……やぁ。リョウ」
「だいぶ疲れてるね」
「まぁ……ビックリするくらい売れなくてな」
だろうね。という言葉を飲み込んで、静かに次なる言葉を待つ。
「それで、このままじゃマズいと試食できる様にしたんだ。そしたらな」
「さらに客が減った?」
「……その通りだ」
地獄の様な話だった。
いや、まぁ分かっていた事ではあるのだが。
「なんでお客さん来ないの?」
「レイちゃん駄目だよ。そんなに真っすぐ聞いちゃあ。きっと美味しくないんだから」
「そうよ。美味しかったら試食の段階で人が来るはずですもの」
「……ぐはっ」
「みんなー。追い詰めるのは可哀想だから止めてあげようねー」
「でも、問題点を洗い出さないと改善は出来ませんわ」
「そうおう。美味しくないなら、美味しくないっていう事実を受け入れてから次に進むべきだよ」
「……」
ソラちゃん達の正論に崩れ落ちた知り合いを見ながら、俺はどうしたもんかと考えた。
実際、ソラちゃん達が言っている事は正しいだろうが、正しいだけでは毒物と同じである。
「じゃあ、私たちでそのお店が売れる様にするっていうのはどうかしら!」
「うん。良いんじゃない?」
「さんせー」
「……だそうですけど?」
「好きにしてくれ。どのみちこのまま終わりってのは悲しすぎるからな」
「なるほど」
俺は一応店の主の意思も確認し、問題ないと受け取ってからソラちゃん達の手伝いをする事になった。
「でも、みんなは良いの? お祭り楽しみにしてたんじゃないの?」
「楽しみにしてたよ! だから、今から楽しむのー!」
「そうそう」
「元々私たちでお店を出したいというお話もありましたの。でも、お父様たちに止められてしまって……。だから今、とても楽しいですわ」
「まぁ、楽しいなら良いか」
後でエドワルドさんとかルーカスさんに小言を言われそうだなと思いつつも、子供たちが楽しいのならそれが一番かと俺は頷いて、ソラちゃん達の手伝いをする事にした。
「じゃー! お店改造作戦! やるぞー!」
「そうですわね」
「おー」
「よろしくお願いしますっ!!」
かくして、ソラちゃん達による作戦は開始したのだった。




