第83話『夜の語らいと朝の|仕事《にちじょう》』
その日の夜。
結局俺達は夜のだいぶ遅い時間までドラゴンやら魔物やらの話で盛り上がってしまった。
が、明日はいよいよ大型の魔物を狩るという事で、慌てて俺達は眠る準備をする事になったのだった。
「とりあえず桜たちはテントで寝ちゃいな」
「お兄ちゃんはどうするの?」
「お兄ちゃん達は、まぁ交代で寝る感じかな。それで良いですよね? オーロさん」
「あぁ。まずはリョウと瞬。次に俺、最後にアレクシスとヴィルヘルムだ。お前たちも良いか?」
「問題ない」
「別に俺は夜通しでも構わないがな」
オーロさんの割り当てにアレクシスさんが強気な発言をするが、オーロさんはそんなアレクシスさんを見て笑う。
そして、アレクシスさんを挑発する様に言葉を返した。
「ほー。それは凄い。それで明日の戦闘も問題なく出来るなら言う事は無いがな。出来るのか? 小僧。万全の状態で」
「ぐ……」
「ガキみたいな事言ってねぇで、さっさと寝て、万全の状態で起きろ」
「はいはい。分かったよ」
まるで兄と弟の様なやり取りをしてから、アレクシスさんは毛布を被って、本当にさっさと寝てしまった。
いや、そうするべきだから、それで良いんだけれども。
そして、ヴィルヘルムさんもいつの間にか眠っていて、桜やミラちゃん達がテントに入ったのを確認してからオーロさんも横になって眠り始めた様だった。
その姿を見送って、慣れてるなぁなんて思いながらたき火に木の枝を投げる。
パチパチと燃え盛る炎を見ながら、今日話した話を何となく頭で思い浮かべた。
ドラゴンの話。そして、色々な種類の魔物の話。
何気なく聞いていく色々な話は、俺の知らないこの世界の常識や歴史を知る事が出来た。
少しずつだが、この世界の事を深く知ってゆく事ができ、今後にも活かせそうで実に助かる。
「そういえば」
「……? どうしました? 瞬さん」
「いや、お前とこうして二人きりで話すのはあの時以来だと思ってな」
「そういえば、そうですね」
俺はうんと頷きながら、火の向こう側にいる瞬さんを見る。
瞬さんは小さく息を吐きながら俺へと視線を向けて目を細めた。
「いい機会だから聞いてみたいんだが……亮は、どこから来たんだ?」
「どこから。というのは難しい質問ですね」
「……ここではない、別の世界から来たから、か?」
「っ!」
「その反応。どうやら当たりの様だな」
「何故……」
「何で俺が分かったか。というのは簡単な話だ。ヤマトを建国したのも、異世界から来た人間だったからさ」
「……! その人の、名前は分かりますか?」
「ヤマト以外の人間には言えない決まりとなっている」
「……」
「が、お前ならば良いだろう。神刀を持つお前ならば」
瞬さんはしばし口を閉じて周囲の気配を確認してから再び口を開いた。
聞かれない様に声を小さくして。
「須藤健二、様だ」
「っ!」
その名前を俺は知っている。
この世界に来る前、西宮院家で聞いたその名前は……遥かな昔に行方不明となった元海軍大尉の名前だ。
やはり、というべきか。
彼もこの世界に来て、この世界で生きていたらしい。
「その人は、それからどうなったんでしょうか」
「死した」
「……そうですか」
「人である以上、永遠に生きることは出来ない。仕方の無いことだ」
「そうですね」
「しかし、あの御方が残したものは今もまだ、この世界で息をしている」
「それは」
「神刀だ」
瞬さんは短い言葉と共に腰に差した刀を鞘ごと抜き、自分の前に掲げる。
「神刀には意思があるんだ。自らの意思で担い手を選ぶ。それはあの御方の意思が未だに消えていない事を示している」
「なら、俺の神刀も」
「無論同じだ。刀を抜く事が出来る。それを握り戦う事が出来る。それは担い手として選ばれている証拠だ」
「……なるほど」
俺は腰から刀を抜いてその刃を見ながら目を細めた。
刀に意思があり、その意思が俺を担い手として認めている。
何だかこそばゆい様な気持ちだ。
「しかし、お前の神刀はまだ完全に目覚めていない」
「……」
「神刀には一刀一刀、それぞれの特性がある。しかし、お前の神刀は未だ何も特性を示していない。いつか目覚める事もあるだろう」
「目覚めない事もあるんですか?」
「無論ある。俺自身『島風』の力を十分に引き出せているかと聞かれると否だからな」
「瞬さんでも……」
「俺なんぞ、そこまで強くはないさ。本当に強い者はいくらでもいる」
「瞬さん以上の人が、居るんですか?」
「あぁ無論だ。俺など未だ道の途中よ。目指す強さの果ては、まだまだ遥かな先だ」
「……そうですか」
俺は瞬さんの言葉に少しショックを受けながら、空を見上げた。
そうか。
瞬さんよりも強い人がこの世界にはいくらでもいるのか。
別に自分が優れている。誰よりも強い。
なんて思っていないが、戦場であれだけ強さを示し続けた瞬さんが、自分をそう評価しているのなら、俺などもっと頑張らなくてはいけないという話である。
強く、ならなきゃなぁ。
なんて俺は夜空を見ながら思うのだった。
そして、時間が来たらしくオーロさんが起きてきて俺と瞬さんは眠る事にした。
ここから朝まで眠る事が出来るが、何かあった際にはすぐ起きられる様にしようとテントの近くで刀を握りながら眠る。
オーロさんを信用していない訳では無いのだが、何かあった際にすぐ処理すれば桜たちの眠りを妨げる事が無いだろうと考えた為だ。
しかし、俺が気にする様な事は何も起きず、世界は静寂を保ったまま無事朝を迎えた。
「おはようございます。では、ドラゴンもどきの解体を始めましょうか!」
「あぁ」
「まずは何からやれば良いんだい?」
朝起きて、桜たちが朝食を作ってくれている間に、俺達は早速ドラゴンもどきの解体を始める事にした。
時間が掛かるというし、先に解体をはじめて適当な所でご飯休憩を取るという様な流れだ。
「えー。まずはですね。たき火で一緒に燃やしておいたこの串を、関節の部分に刺してゆきます。まずは骨と骨の繋がりを絶つワケですね」
「関節ならどこでも良いのか?」
「出来れば中心部が良いですね」
「なるほど、なっ」
俺達はデカいドラゴンもどきの体に串を刺してゆく。
そして、ある程度刺し終わってから再びミラちゃんの指示を聞くべく集まる。
「ありがとうございます。では次に、こちらの魔術紙を串の辺りに貼って下さい」
「あぁ」
「どんどん作っていきますから、バンバン貼っちゃってください!」
ミラちゃんは魔術を紙に写したという物を次々と作り出し、それを俺達に渡してゆく。
そして、串と同じ数だけ貼り終わってから、ミラちゃんは一斉に魔術を発動させ、ドラゴンもどきの体を燃やすのだった。
「ではこれで関節部は切り離す事が出来たので、後はナイフや剣で切り離せるハズです!」
「了解だ」
「む? ぐ、ぐぐ、確かに刃は通るが……固いは、固いな」
「確かに、そうですね」
「しかし、一応解体は出来るからな。やっていくぞ」
オーロさんの言葉に頷いて、俺は解体用のナイフをドラゴンもどきの体に通してゆく。
が、かなりの重労働で、朝食が出る頃には全身から汗を流しながら倒れる様に地面に座り込んでしまうのだった。
「はー。中々、大変だー」
「お疲れ様。お兄ちゃん」
「あぁ、ありがとう。桜」
桜から朝食にと用意してくれたスープカップを受け取り、パンと肉を食べながらスープを飲む。
桜の愛情が入っているからか、非常に美味しく体に染みわたるかの様だった。
「……まぁ、でも。このままいけば昼頃には終わるかな。とりあえずの解体は」
「でもお兄ちゃん」
「ん?」
「大型の魔物を呼び寄せるには骨を使うんでしょ?」
「あ」
「たぶん、ここから骨と肉を切り離す作業があるんだよね」
「……そういえば、そうだったな」
俺はまだまだ長そうな作業に目を閉じて、息を吐くのだった。




