第81話『|冒険者技術《かいたいぎのう》の習得』
あれから。
瞬さんがオーロさん達を呼びに行っている間、俺は中型の魔物を解体しようとナイフを片手に考えていた。
が、どういう風に、どこから解体すれば良いのか、さっぱり分からない。
何か練習したいな。
と思っていると、一匹のイエローチキンが飛び込んできた。
そして、イエローチキンは必死にくちばしを中型の魔物に叩きつけて攻撃していた。
食べようとしているのかもしれない。
俺は傷つけられては面倒だとイエローチキンを狩る事にしたのだが……。
「っ! そうか。コイツでひとまず練習するか。夕飯も必要だしな」
名案を思い付いたと俺は夢中で中型の魔物に攻撃しているイエローチキンに近づき、その命を刈り取った。
それから地面に倒れたイエローチキンに近づいて、桜たちがやっていた行動を思い出しながら、解体を進めるのだった。
「えー。確か、まずは羽を取るんだったか……。む? 思ったより固いな。ん、ぐ、ぐぐ……」
俺は羽を引っこ抜こうと苦戦し、力任せで何とか一枚抜いたが、まだ体に残された無数の羽を見て、眉をひそめながら考えてしまった。
果たしてこんな力任せな方法で桜たちは羽を抜いていただろうか、と。
何か方法があるのではないだろうか?
引き抜いた羽を見ながら俺は考える。
羽の中心の固い部分には返しの様な物があり、もしかしたらこれが肉に引っかかって抜けないのではないか。
ならば、このトゲというか、返しが無くなれば取れる?
もしくは、肉が柔らかくなって引っかからなくなるとか……反対方向に抜けばそもそも引っかからないのでは無いか?
俺は思いついた限りの手段を試す為、順番に実行してみる事にした。
羽を逆方向に抜こうとしたり、肉を叩いて柔らかくしてから抜こうとした。
が、どんな方法もあまりうまくいかず、俺は腕を組みながら悩んでしまうのだった。
「んー。何か手段がある気がするんだが……なんだ?」
謎解きの様に俺は唸りながら考える。
しかし、答えは出なかった。
そして、考えている間に時間制限が来てしまったようで、森の方から話し声が聞こえてきた。
「リョウ!」
「ヴィルヘルムさん。早かったですね」
「一人で大丈夫だったか?」
「えぇ、ただ……」
「ただ?」
「いえ、待っている間暇だったので、解体なんかを挑戦してみたんですけど、こんな状況でして」
俺は駆けてきたヴィルヘルムさんにイエローチキンだったものを指さして見せた。
「これは」
「知らないなりに頑張ってみたんですけど、やっぱり難しいですね。知識が無いというのは」
「そうですね! 知識は大事だと思います!」
「うぉっ!」
ヴィルヘルムさんと話をしていた俺は、不意に飛び込んできたミラちゃんに驚き、一歩引く。
しかし、ミラちゃんはそんな俺の反応は特に気にせず、倒れている無残な姿のイエローチキンを見てクスリと笑った。
そして、イエローチキンの前にしゃがみ込むと、羽の根本辺りを触り、僅かに手を光らせた。
何をしているのか分からないが……それにより、羽が僅かに震える。
「イエローチキンを解体する際には、羽の処理に注意が必要です」
「うん。返しがあるからそのままじゃ抜けないんだよね?」
「はい。ですから、羽の特性を活かす形で抜きやすくします」
「羽の特性?」
「そうです。イエローチキンの羽は魔力を通す事で芯の部分が柔らかくなるんです」
「ほう」
「なので、羽の刺さっている部分に魔力を通し、芯が肉の上から触っても分かりやすく柔らかくなってきたなとなったら、抜く。という様な感じですね」
「なるほど」
俺はミラちゃんがスッと羽を抜いたのを見ながら頷く。
しかし、この方法は中々に難しそうであった。
「何故、魔力を通すことで羽の芯が柔らかくなるのか。これには色々な説がありますが、有力な説としては羽が生え変わる時期に効率良く羽を抜く為に魔力を通す事で抜けやすくしているのでは無いかという説があったり」
「……」
「イエローチキンが危機的状況に陥った時、羽を撒き散らしながら逃亡する性質がある事から、魔力を羽に通すという特殊な状況でありながらイエローチキンにとって起こしやすい状況をトリガーとして、危機的状況に即座に対応出来る様にしているのでは無いかという説が……!」
凄い勢いで語り始めたミラちゃんに俺が圧倒されていると、肩をポンと叩かれた。
叩いたのはオーロさんであり、どこか遠い目をしながらミラちゃんを見つめつつ口を開く。
「あぁなったミラは長いぞ。とりあえずこのまま放置して良いから夜の準備をするか」
「え? 良いんですか? 放置して」
「あぁ。もうこっちは見てねぇよ」
オーロさんの言葉にミラちゃんを見ると、確かにミラちゃんは楽しそうに話をしているが、もはや俺の方は見ていなかった。
そして、実に楽しそうに話を続けている。
「しかし、私はこういう可能性も考えている訳です。そう。それは進化の過程で残ったシステムの一部では無いかと……!」
「あー。なるほど」
「そういう訳だ。とりあえず今日はここで夜を過ごす。野営の準備を手伝って貰う」
俺はオーロさんの言葉に頷き、ひとまずミラちゃんをイエローチキンの傍において木の枝を集めに行く事にした。
何度か木の枝を運んできている内に気づいたが、話し続けるミラちゃんの近くにはフィオナちゃんとリリィちゃんと桜がいる様で、話を聞いているというワケでは無いが、イエローチキンを解体しながらミラちゃんを守っている様だった。
何というか、独特な子である。
「気になるか?」
「えぇ、まぁ……」
「気持ちは分かるがな。気にしても仕方ないぞ。ミラはいつもあぁだ」
「あぁ……って、あぁいう状態なんですか?」
俺は人差し指を立てながら、終わらない話を続けているミラちゃんを見て、オーロさんに視線を戻す。
「ミラは頭が良くてな。色々な事を覚えているんだが、それを話したくてたまらないのさ」
「でも、そういう事なら聞いてあげる方が良いんじゃないですか?」
「それが実はそうでもない」
「というと?」
「ちゃんと相手が居て話をしている時は聞いてやるのも良いんだが、理論だ学説だなんだと話し始めた時は、大抵こっちは見てねぇんだ。そして、こっちの話も聞こえてない」
「なるほど……それが今の状態だと」
「そういう事だ。まぁ、その内元に戻るさ。だから、気にしなくても良い」
「……はい」
俺はオーロさんから再びミラちゃんへと視線を戻して頷いた。
そして、俺は再び野営の作業に戻るのだった。
それからそれなりに時間を掛けて、野営の準備を終えた俺達は桜たちが準備をしてくれた夕食を食べるべく火の近くに集まった。
既に日は沈んでいるし、ミラちゃんの話も終わっている為、俺達はそこまで重要ではないし、難しくもない話をしながら夕食を食べていた。
「んー! 確かに狩ってすぐに食べるイエローチキンは美味しいね。桜」
「うん! そうだね!」
「これは教えてくれた桜に感謝だね」
「にへへ」
「冬が終わったら、また二人で食べにくるのも良いかもしれないね」
「それ良い! 良いね!」
「あー。二人でズルい話してるー! 私も一緒に行きたいなー!」
「うーん。どうしようかなー」
「サクラちゃん!」
「あはは。分かってるよ。フィオナちゃんとリリィちゃんも一緒に。また食べに行こう!」
「やった! 良かったね。リリィ!」
「……うん。そうだね」
笑い合うフィオナちゃんとリリィちゃんを見ながら俺も笑う。
そして、冬を超えた先の春に想いを馳せるのだった。
が……。
「春の話は良いけど」
「うん? どうしたの? リリィ」
「冬の支度。私たちやってないよ」
「「あ!!」」
桜とフィオナちゃんの反応を見て、どうやら仕事が増えたらしいという事を俺は察するのだった。




