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異界冒険譚  作者: とーふ
第3章『繋がる人々』
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第72話『彼女たちの楽しい|訓練《おにごっこ》』

 つい先日、突発的に行われたエルネスト家大鬼ごっこ大会にて、ココちゃん達に敗北した少女たちは燃えていた。

 次こそは決して負けないと。


 そして、今日もまたエルネスト家全てを使った鬼ごっこが始まり……ココちゃんは捕まらない様に逃げ回っていた。


「まてー!」

「そっちに行ったわよ! ソラリア!」

「分かってるよっ! レイちゃん! サクラちゃん!」

「ん!」

「大人しく! お姉ちゃんに捕まりなさいー!」

「~~!!」


 逃げ回るココちゃんを桜、ソラちゃん、レイちゃん、シャーロットちゃんが追いかけている。

 が、ココちゃんは捕まらず、囲まれても器用に逃げ回っているのだった。


 しかも、この間俺の体を足場として空に飛んだ経験がココちゃんを更に成長させているのか。

 危なくなっても塀や木などを上手く使って三次元的に逃げている為、中々捕まらない。


 このままいけば、今日も今日とてココちゃんが勝つだろう。


 俺は頼子さんと共に木製の椅子に座って、お茶を飲みながら鬼ごっこを観戦しつつ、危険が無いかだけ目を配り続けるのだった。

 いざ、何か危険があればいつでも飛び込んでゆく覚悟はある。


 が、今日も今日とて何も起きず、皆がダウンしてからココちゃんは軽い足取りで俺の所に飛び込んでくるのだった。


「お兄ちゃん……!」

「今日もお疲れ。ココちゃん。悪かったね」

「ううん。ココも、楽しいから……!」


 やや息を切らせながら、微笑むココちゃんの頭を撫でて、甘えるココちゃんを膝の上に乗せながら死屍累々の少女たちが集まるのを待つのだった。


「くぅー! 今日も! 負けた!」

「ココ、ちゃん、はやーい」

「なんて事ですの!」

「お兄ちゃんの……膝の上っ!」


 足を引きずる様な体で集まってきた少女たちは思い思いの椅子に座り、疲れた体を冷たい紅茶と甘いお菓子で癒していた。

 あの日、ココちゃんに鬼ごっこで負けた四人が正式にルールを定め、遊んでいるのが今のゲームだ。


 ルールは至ってシンプル。

 逃げるココちゃんを捕まえるだけ。

 そして、一番最初に捕まえた子が俺を椅子にして、紅茶する権利を得る。


 無論逃げ切ればココちゃんがその権利を得る。

 という遊びをやっているのだが、流石の身体能力というべきか。

 今日まで連続で十日ほどやっているが、ココちゃんの全戦全勝であった。


 そんな結果、ココちゃんは今日もご機嫌で、エルネスト家が出してくれる甘いお菓子と紅茶を俺の上で食べているのだった。


「むー! 明日こそは!」

「でも、ココちゃん早すぎ。捕まえられる気がしないよぉ!」

「ソラリアは真っすぐ過ぎるのよ。追い込むのなら、もっと地形を利用するべきだわ」

「レイちゃんもロッティの意見に賛成」

「地形って言ってもさ。壁の方に行ったら、ふわーって空に飛んじゃうじゃない」

「それは、まぁ、そうだけど……! そこを上手くやるのよ!」

「上手くって言ってもなぁ」


 作戦会議を行う桜たちを眺めながら、俺はココちゃんを左手で支えて、紅茶を飲む。

 ほぼ重さは感じていないが、体を斜めにすれば落ちてしまうから動くときは慎重さが重要だ。


「……ん。お兄ちゃん」

「ん? あぁ、ありがとう」


 そして、ココちゃんが持ってたお菓子を口に入れてもらい、笑顔で礼を……。


「そこまでは許してなーい!! 第二ラウンド開始! これはお姉ちゃん命令だよ!」

「うん……! ココ、がんばる。まけない」

「にー! 今度こそ捕まえるから! 見てて! お兄ちゃん!」

「あ、あぁ」


 桜は元気よくそう宣言するとココちゃんの手を引っ張りながらまた広い中庭へ向かってゆく。

 かつてソラちゃんの秘密基地だった場所は一瞬レイちゃんの秘密基地になり、今はみんなの遊び場になっている。

 良い事だと思う。


 そして、今日も今日とて、桜たちは楽しく笑いながらココちゃんを追いかけるのだった。


「はい。そろそろ日も沈むから今日はおしまい」

「はーい」

「はぁー。はぁー。きょ、今日も捕まえられなかった……」


 俺は走り寄ってくるココちゃんを抱きとめて、近くの椅子まで運び、桜、ソラちゃん、レイちゃん、シャーロットちゃんと順番に抱き上げて椅子まで運ぶのだった。

 もはや全員立っているのも限界らしく、椅子に体重を預けて空をボーっと見上げている。


「もう限界みたいだね。みんな」

「ココちゃんつよすぎだよー。ムリー」

「そうですわね。流石に出来る事と出来ない事がありますわ」

「……おんなじ」


 どうやら遂に諦める気持ちが沸き上がってきたらしい。

 まぁ、しょうがないと言えばしょうがない所ではあるが。

 ムリしても良くないだろうしなぁ。


「お兄ちゃんなら」

「ん?」

「お兄ちゃんなら、ココちゃんを捕まえられる?」


 しかし、そんな諦めるような空気の中、不意に桜がキラリと輝く瞳で俺を見つめながらそんな事を言ってきた。

 その視線の強さに、願う様な瞳に、俺は小さく笑みを浮かべながら頷く。


「あぁ。良いよ。やろうか」

「っ!」

「制限時間内に俺がココちゃんを捕まえられたら俺の勝ち。捕まえられなかったらココちゃんの勝ち。シンプルだろう?」

「……!」

「もしココちゃんが勝ったら何か一つお願い事をきくよ」

「ほ! んとに?」

「あぁ。嘘は吐かない」

「わかった……! ココ、がんばってにげる!」

「うん。良いね」


 俺は気合を入れるココちゃんの頭を撫で、半信半疑という様な顔で俺を見つめている四人にも笑いかけた。

 まぁ、見ててよと言って。


 それから。

 夜はぐっすりと休んでもらい、翌朝早くからエルネスト家に来ていた俺は、普段着のまま準備運動をしていた。

 ココちゃんも珍しく気合いっぱいで、俺の動きを見ながら、見よう見まねで準備運動をしている。


「ふふふ。お兄ちゃんの動き、しっかりと見させてもらうよ」

「まぁ、参考になるかは分からないけどな」

「……おにいちゃん」

「あぁ」

「ココは、いつでもいい」

「分かった。じゃあ始めようか」


 ちょうどシャーロットちゃんも遊びに来て、ソラちゃんやレイちゃんも今か今かと開始を待ちわびている中、俺とココちゃんの一騎打ちは始まった。

 ココちゃんの身体能力は何となくだが、分かっている。


「じゃ、とりあえずココちゃんが逃げてから十カウントして俺も動くよ」

「うん……!」

「えぇ!? 良いの!?」

「あぁ。俺の方が大人だしな」

「駄目だよ! リョウお兄ちゃん! ココちゃんはすっごい早いんだよー!」

「そう。ぴゅーんと行っちゃう」

「ハンデなんて! リョウ様!」

「まぁまぁ、やるだけやってみよう」


 俺は軽く手を振って、ソラちゃん達の声を止めた。

 一応俺が昔遊んだ鬼ごっこは、こんな感じのルールだった筈だ。

 十カウントだったか二十カウントだったか覚えてないけど。

 まぁ、動ける範囲に限界があるから、そこまでカウントを増やす必要は無いだろう。


「じゃあルールの確認だよ。ココちゃん」

「うん」

「逃げても良いのは、この目に見える範囲だけ」

「うん」

「手でタッチして触れたら、捕まえたという合図」

「うん。だいじょうぶ」

「オッケー。じゃあ始めるタイミングはココちゃんに任せるよ。俺はココちゃんが動いてから」

「わかった……」


 ココちゃんは大きく深呼吸をしてから、何度か呼吸を繰り返し、落ち着き冷静な瞳で俺を見据える。

 そして、まるで消える様な速さで動きながら呟く様に言うのだった。


「スタート」

「……10、9、8」


 俺はココちゃんの動きを目で追いながら、ゆっくりとカウントを重ねてゆくのだった。


「7、6、5、4、3、2、1……」


 順番に数字を口にしてゆき、最後の一つだけ体に力を貯めながら、少し長めにカウントし……。


「0」


 零カウントと同時に地面を強く蹴り、ココちゃんの居る方へ向かって走り出した。

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