第61話『|死闘のその後《あれから》』
巨大な魔物との戦いが終わった。
俺は、ミラさんという方に治療をして貰い動ける様になったのだが、アレクシスさんと同じく血を流し過ぎたという事で当分は療養生活である。
アレクシスさんは孤児院で子供たちに囲まれながらベッドでのんびりしている。という話を見舞いに来てくれたヴィルヘルムさんに聞いて俺は安堵するのだった。
「わざわざありがとうございます」
「いや。リョウの様子も見たかったしな」
「まぁ、俺は元気にやってますよ。ベッドから出る事は出来ませんが」
俺はベッドの上に上半身を預けて深い眠りの中にいるココちゃんの頭を撫でながら笑う。
心配だからとずっと傍に居たのだが、流石に疲れて眠ってしまったのだ。
「それは良かった」
「そう言えば、壁の方はどうなりました?」
「街の職人が集まって全力で修復してるよ。早く直さないと魔物が入ってくるからってな」
「それは助かりますね」
「あぁ。本当にな。という訳で騎士たちも壊れた壁の辺りで大忙しってワケだ」
「冒険者は……」
「冒険者は森だ。壁に近づこうとする魔物を排除する仕事と、森の調査だな」
「……みんな忙しそうにしているんですね」
俺はベッドで寝たまま数日動けていない体に僅かな苛立ちを覚える。
だが……。
「お前は大人しくしてろ」
ヴィルヘルムさんに頭を軽く叩かれ、握りしめていた手をほどいた。
「のんびり休めよ。セオストを救った英雄」
「いや、俺は!」
「俺は。なんだ?」
「俺はお膳立てをして貰っただけですよ。それに最後のトドメを刺したのはアレクシスさんですし」
「まぁ、確かにな。だが、状況がどうであれ最後の瞬間。最も危険な場所で奴を倒したのはお前だ。その点は誇るべきなんじゃないか?」
「……」
「その不満も分かるがな。ソイツを解消する方法は一つしかない」
「……それは?」
「強くなることだ。今回情けない事になった俺もそうだがな。お前もアレクも悔しいのなら。もっと上手く出来たと考えるのなら強くなるしかない。そうだろ?」
「そう、ですね」
「という訳だ。今はゆっくりと休んで、元気になってから悩めば良いさ」
「ありがとうございます。ヴィルヘルムさん」
「構わないよ。俺もお前たちに救われた一人だからな」
ヴィルヘルムさんは軽く笑って手を振ると部屋から出て行った。
そして、ヴィルヘルムさんと入れ替わりに部屋の中に入って来た桜はやや強張った顔で部屋の中に入ってくると、何故か周囲を警戒しながら俺のベッドまで歩いてくる。
「どうしたんだ? 桜。そんな怖い顔して」
「……またなんか変なトラブルが起こって、お兄ちゃんがどこかに行っちゃうんじゃないかって思って」
「まぁ、その可能性もゼロじゃないけど。今のセオストは平和みたいだよ。ひとまず俺の出番は無いみたいだ」
「そっか」
桜は少し落ち着いた顔でベッドの横に座ると、ふぅと小さく息を吐いた。
「ホントはね。ヴィルヘルムさんが来た時、でてけーって追い出そうとしたの」
「なんでまた」
「だって、前にお兄ちゃんを遠くに連れて行っちゃったし。今回だって、お兄ちゃんが無茶する事になっちゃったでしょ? 凄い冒険者だーって聞いてたのに」
「そう言わないでくれ。桜。ヴィルヘルムさんも必死だったんだよ。それは俺も同じだけど」
「……」
「誰が強いから、誰が頑張れば。なんて言ってたら、俺だってずっとどこかで誰かの為に頑張り続ける事になっちゃうぞ?」
「……それは、ヤダ」
「だろ? だからさ。誰かが頑張るんじゃなくて、みんなで出来る事をやった。その結果。一番早く走れた俺が現地で頑張った。それだけの話さ」
「でも、それじゃお兄ちゃんがずっと頑張る事にならない?」
「なるかもな」
「なら、それもヤダ」
「まぁ、確かにな。俺だって、桜たちとのんびりする時間は欲しいから、頑張りすぎるのは嫌だな」
「……うん」
俺は桜に笑いかけながら、軽く話をする。
この世界でどんな風に生きていけばいいのか。
最近何となく見えてきたのだと、桜に伝える為に。
「正直な。俺はこの世界に来た時、何かあったら桜と一緒に逃げればいいや。なんて思ってたんだ」
「今は違うの?」
「あぁ。違う。だってほら。もうこの家に住んでるのは俺と桜だけじゃないだろ?」
「そう、だね」
桜はチラリと隣で眠るココちゃんを見ながら頷く。
「桜と二人だけなら好きな様に生きていけばいいけど。これだけの人数がいるとな。流石にそういうワケにはいかない。そうだろう?」
「うん……そうだね」
「だからさ。俺はこの街の人たち。この街の力を借りる事にしたんだよ。セオストを守れば、桜たちも安心して生きていける。何も怖い事はなく、暮らしていける。桜。俺はな、今回……その為に戦ったんだよ。俺が俺に出来る事で戦ったんだ」
「……お兄ちゃんは、後悔してる? 家族が増えたこと」
「後悔なんてないさ。俺の幸せは桜の幸せだからな。桜が寂しい思いをしない。怖い思いをしない。友達と、家族と一緒に笑って過ごせる。それが全部だ。だから、後悔なんてしないよ」
「……うん」
「もちろんこれは無理をしている訳じゃない。お兄ちゃんって奴は、妹の笑顔を見るのが何よりも好きなんだ」
「私に出来る事は、笑う事、だけ?」
「さて、どうだろうね。そこは桜が何をしたいか、かな? 俺は桜の料理も好きだけど」
「……! じゃあ、お料理頑張る!」
「嬉しいよ。桜」
俺は軽く頭を下げた桜の頭を撫でながら笑いかける。
嬉しそうに微笑む桜を見ていると、自分の選択が正しいのだと確信出来た。
「という訳だから、お兄ちゃんは桜と、桜が幸せに過ごせる場所を守る為に、これからもセオストを守るよ。というお話だったんだけど」
「うん」
「セオストで生きる。ここを守ると決めたからにはしなければいけない事があるんだ」
「……冒険者の仕事をするだけじゃダメなの?」
「それでも良いんだけど。もっと出来る事があるなって」
「出来ること……?」
「そ。セオストの偉い人と仲良くなろうかなって思ってさ」
「偉い人って……ヴィルヘルムさんとかみたいな?」
「あー、まぁ確かにヴィルヘルムさん達も冒険者として偉い人なんだけどさ。そういう事じゃなくて、この街を管理したり運営したりする人たちの事だよ」
「……うーん」
「よく分からないか」
「うん」
「ほら、オリビアさんが街を案内してくれた時に言ってただろう? 貴族とかの偉い人が住んでいる場所があるって」
「……言ってた」
「俺が仲良くしようかなって思っているのはそういう人たちの事さ」
「……危ない事は無いの?」
「まったくないとは言わない。正直な所よく分からないしね」
「なら、私は、ちょっと嫌だな」
「ふむ」
俺はそっぽを向きながら拒絶する桜を見て、少し考える。
そして、いくつか会話を想定しながら再び口を開いた。
「桜は、俺が一人でそういう所に行くのは不安か?」
「うん。ヤダ」
「なら……」
「なら?」
「一緒に行ってみるか? その人たちがどういう人たちなのか。桜も見て、聞いて、判断してみてくれ」
「っ! 良いの?」
「あぁ。実はね。桜も招待されているんだよ。この街で、もしかしたら一番偉いかもしれない人にさ」
「そう、なんだ」
ビックリしつつ、迷いを見せた桜に俺は続けて問う。
「怖いなら、無理には言わないよ」
「……でも、お兄ちゃんは、行くんでしょう?」
「あぁ」
「なら、行く! 私も、行くよ」
「そうか。分かった。じゃあ行ってみようか。お貴族様の家。エルネスト家っていう所にさ」
こうして桜の了承も手に入れた俺は、壁の上で戦っていた時にエドワルド・エルネストさんから受けた依頼をこなす為に、ひとまずは体の回復に努めるのだった。




