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異界冒険譚  作者: とーふ
第1章『はじまり』
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第6話『辿り着いた|場所《セオスト》』

 森の中で夜を明かし、俺はまだ夢の世界に居る桜を抱きかかえながら、セオストを目指しヴィルヘルムさん達と森の中を歩いた。

 イノシシは冒険者組合の人間に見せたいという事で、街まで連れてゆく予定だ。

 そして、俺達は日が沈む前にセオストへとたどり着く事が出来たのだった。


「さ、着いたぜ。ここがセオストだ」

「……ここが」


 森を抜けた先に広がったのは巨大な石の壁であり、少ししてからそれが城壁である事に気づいた。

 いや、街だと言っていたし、街壁か?


「驚いているな」

「えぇ、まぁ……これほど巨大な壁を見るのは初めてですから」

「まぁ、ヤマトの連中は壁なんか作らずに自分の手で何とかする連中ばかりだからな。そういう感想になるのも当然か」

「……そうですね」

「だが、セオストは戦う力を持たない者も多いからな。こうして壁を作って魔物が襲ってきた時も中へ入るのを拒めるって訳だ」

「なるほど」


 俺は遠方からでも分かる巨大な壁に圧倒されながらも、これなら桜を危険なものから守る事が出来そうだと頷く。

 少なくとも、俺が戦ったイノシシ程度では傷をつける事すら難しいだろう。


「後は、これより先へ進めないもの達を、冒険者たちが狩る。という流れですかね」

「ま。俺らが呼ばれる前に街の護衛騎士が倒す場合もあるがな」

「……なるほど」


 俺は石壁の上を走り回る西洋甲冑の様な物を着た者達や、巨大な扉とその隣にある小さな扉の前に立つ者達を見据える。

 ……扉が二つ?

 一つが人間用なのは分かるが、もう一つは何用だ?

 遠目から見てもかなり大きいことが分かる。

 俺が戦ったイノシシくらいなら余裕で通れるだろう。


「アレクシスさん。ヴィルヘルムさん。何故石壁に扉が二つあるんですか?」

「あぁ。一つは俺らが通る人間用で、もう一つは獲物の搬入用だ」

「搬入用? という事は、倒した獣をそのまま中に入れるという事ですか?」

「そうなるな」

「外で解体したりしないのですか?」

「小型の獲物なら、その場で解体する奴もいるが……大型の獲物は基本的に街の解体専門家に任せるな」


 俺はヴィルヘルムさん達と共に石壁に向かってのんびりと歩きながらアレクシスさんの語る言葉の意味を考える。

 そして、とりあえず一つ理由が浮かんだ為、口にしてみる事にした。


「外だと解体している間危険だから。とかですか?」

「正解。だけど、他にも理由はあるよ」

「他……肉以外の部位も有効活用出来るから、とか」

「あぁ、それも合ってるな。だが一番重要な所がねぇな」

「一番重要な所」


 ふむと考えながら思考を巡らせるが、答えは出なかった。

 いや、なくは無いが、雇用を作る為とかそういうのは本質では無さそうだし。

 一番の理由というからには、この世界ならではの何かがありそうな気がしたのだ。


「ちょっと浮かびませんね」

「まぁ、ちょっと難しかったかな」

「ヤマトじゃ魔力の研究なんかは進んでねぇだろうしな」

「……魔力、ですか」

「そう。魔力だ」


 ヴィルヘルムさんは爽やかな笑みを浮かべながら右手を前に出し、そこに風を生み出した。

 手のひらの上で動く小さな竜巻だ。


「これは……!」

「魔術って奴だな。正式には、精霊魔術っていうんだ」

「精霊魔術」


 俺は初めて聞いた言葉を記憶しつつ、その現象をジッと見つめた。

 種も仕掛けもあるんだろうが、少なくとも俺の目でそれを確認する事は出来なかった。

 魔術。魔術だ。

 俺達が生きていた世界では魔法なんて呼ばれてた気もするが、要は不思議な現象を起こせる力という事だろう。

 危険だな……。


「それは、俺にも使う事が出来るでしょうか」

「興味があるのか?」

「はい。もし使えないとしても、対抗する手段は欲しいです」

「そりゃ勤勉だ。分かったぜ。冒険者組合に着いたら色々説明してやるよ」

「ありがとうございます」

「で、だ。さっきの質問の答えだがな……この魔術という力は人間しか使えないんだが、どうやら最近の研究で魔物も魔力を集めて魔術に似た力を使っている事が判明してな」

「……」

「小型の魔物であればそこまで問題にはならないが、大型の魔物の場合、死骸に残った魔力を別の魔物が喰う事で凶暴化する可能性があるってのが分かったんだよ」

「なるほど。それで、外では全てを無にする事は出来ないので、内部で解体する。という訳なのですね」

「そういう訳だ」


 俺はまた知らない危険性がある事を知り、慎重に生きる事の必要性を再認識する。

 当然と言えば当然だ。

 この世界の事を俺は何も知らないのだから。

 桜に何かがあってからでは遅いのだ。


「っと、どうやら話も終わりだな。組合長が来たみたいだ」

「街の外に出るなんて珍しいな。慌てて走ってるぜ」

「まぁ討伐対象だったジャイアントボアと一緒に帰宅すれば焦りもするだろう」

「そりゃそうか」


 アレクシスさんとヴィルヘルムさんの言葉を聞きながら俺は少しだけ進む速さと落として、二人の後ろにつく。

 二人も何となく俺の意思を察したのか足を速めてくれ、組合長なる人物へと向かって行った。


「よう。任務は達成したぜ」

「ア、アア、アレクシス! 何が達成だ! 誰が街までジャイアントボアを連れてこいなんて言った!」

「さてな。俺が受けた依頼はジャイアントボアを無力化しろってだけだったからな」

「くっ! ヴィルヘルム! 何故この様な事をした!」

「事情があるんだ。組合長」

「事情だと……?」


 ヴィルヘルムさんは組合長と呼ばれた小太りの男に話しかけてから俺の方に視線を送る。

 どうやらここで俺達を紹介しつつイノシシについて話すらしい。


「事情を話す前に紹介するよ。色々あってな。元居たところを出て、セオストに移住したいらしい。兄妹だ」

「……ふむ? なるほど。その刀、ヤマトの者か。それで? ヤマトから来た流れ者と今回の件にどういう関係がある」

「それがな。この兄妹がジャイアントボアを無力化した後、懐かせたらしくてな。もう人は襲わないと約束させたんだよ」

「なに? そんな事が可能なのか!? まさか、魔法使いでは無いだろうな!?」

「そういう感じじゃねぇな。どちらかというと、巫女姫に近い気がする」

「……ヤマトの巫女姫様と同じ力、か。随分と厄介な物をセオストに持ち込もうとするじゃないか。アレクシス。ヴィルヘルム。戦争でも起こすつもりか?」

「一応後でヤマトから来た連中にも確認するさ」

「無論セオストが拒否する権利はあるだろうが……リョウは単独でジャイアントボアを制圧する程の力を持っている。他国に流しても良いのか?」

「ジャイアントボアを一人で!?」


 驚き、声を上げながらこちらを見る組合長に俺は軽く頭を下げた。

 無論腕の中で寝ている桜を起こさない様に注意しながら、だ。

 そして、静かに話を聞きながらも気になる言葉は頭の中のメモ帳に書き記し、後で調べようと思考を重ねる。


「う、うぅむ。うむ……分かった。受け入れよう。ただし、後でエルネストさんの所へは行ってもらうぞ。あの人が駄目だと言えば、駄目だ。良いな!」

「分かってるよ。そういう訳だが、良いか? リョウ」

「えぇ。俺は大丈夫ですよ」


 他に国があることも分かったし。最悪は人が歩くであろう街道を進んで別の国に行けば良いと考えながら頷く。


「それで? ジャイアントボアはどうなるんだ」

「あー。それか。リョウ。どうする? 流石に街の中に入れるのは難しいぞ」

「難しい、ではない!! 無理だ!!」

「だそうだ」

「えぇ。分かってます。ちょっと待って下さい」


 俺は寝ていた桜を起こし、イノシシについてどうするか聞いた。

 予想していた事ではあるが、桜はお別れで大丈夫だと言い、俺達はここまでの旅を一緒に歩んできたイノシシに別れを告げるのだった。


 そして、いよいよ人の世界、自由商業都市セオストへと足を踏み入れる。

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