第57話『|新種の魔物《あらたな脅威》』(アレクシス視点)
(アレクシス視点)
セオストへ戻ってきてすぐに、冒険者組合へと向かった俺とヴィルは、何やら焦った様子の組合員に言われ、奥の部屋へと向かった。
何か緊急事態という事の様だが、セオスト自体は騒いでおらず、内密の話の様だ。
「それで? 緊急事態ってのは何だよ。その様子じゃあ結構やばそうな感じだが」
「あぁ、かなり大きな問題だ」
「そんなにか」
俺はふざけながら言った言葉に、真面目な答えが返ってきて、少しばかり気を引き締める。
普段はふざけている組合長だが、本当に危機が迫っている時は真剣だ。
今回は組合長からそういう気配を感じた。
「オリビア君。例のものを」
「はい」
そして、受付のオリビアから渡された紙に目を通せば、確かに組合長が焦る物が書かれていた。
「新種の魔物か」
「はい。目撃したパーティーの報告によれは、既存の魔物が変異した姿とは考えにくく、完全に新種の魔物であるとの事です」
オリビアの説明を見ながら、報告書に書かれた絵を見るが……イマイチその実体が見えない。
まるで子供が書いたような雑な絵からはどうにも情報が掴めなかった。
「新種ってのは分かったんだが、そのパーティーにはもう少し絵心のあるう奴は居なかったのか? もしくは撮影用の魔導具で撮るとか、色々と方法があるだろう」
「いえ。アレクシスさん。その魔物は、この絵そのままの姿だったのです」
「いや、バカな……」
首も頭も足も手も何もない。ぐにゃぐにゃとした丸い線が引かれているだけ。
これが生き物? 冗談だろう?
「もしかして、この魔物は水の塊のような物がそのまま魔物となった様な存在なのですか?」
「いや、ヴィル。そんな奴……」
「はい。その通りです。ヴィルヘルムさん」
「……マジかよ」
水の塊が生物の様に動き回る?
冗談みたいな話だ。
誰かが魔術でいたずらをしたという方がまだ信じられる。
が、森の中でそんな悪ふざけをする人間は居ない。
意味もなく魔術を使えばその魔力に反応して魔物が襲ってくる可能性があるのだから。
「しかし、本当に魔物だってんのなら、どうやってコイツは物を見てるんだ? 目だけ水の中に浮いているとでも言うのか?」
「いえ。それらしい器官は無かったようです。ただ魔力で輝く丸い石が中央にあるだけだったと」
「……魔導具の可能性はありませんか? こう、石に魔力を宿らせて、周囲の水をまとって動く様な」
「意味が無いだろう。そんな魔導具を何に使うってんだ。兵器ってんならまだ分かるけどな。しかし、それにしちゃあ森にいた理由が分からねぇ」
「稼働実験をしていたんじゃないか?」
「森で? 調査する奴だって食われちまうぞ。もし腕の立つ護衛を連れているのなら、逆にセオストの近くで実験する理由がねぇ」
「……確かにな」
俺はヴィルと言葉を交わしながら、魔物の正体を考えるが、結局何も分からないという事が分かっただけだった。
とにもかくにも、本物を見てみるしかないだろう。
「資料だけじゃ分からんな。とりあえず現場に行ってみるという事で良いか?」
「はい。お願いします」
「アレクシス。ヴィルヘルム。もし、この生き物が危険だと判断された場合、即座に帰還。エルネスト様を交えて対策会議だ。良いな。くれぐれも無茶はするなよ」
「分かりました」
「大丈夫だよ。そんな無茶をする気はねぇ」
組合長とオリビアから情報を聞いた俺は、ヴィルと共に、新種の魔物を見つけたというパーティーと共に森へと向かった。
いざという時の為に、もう少し人を増やしても良いが、セオストの防衛を考えればあまり戦力は裂きたくない。
という訳で、俺たちは何かあった際には捨て石になる覚悟で、森の中へと向かった。
「……しかし、悪いな。お前ら。損な役回りで」
「構いませんよ。これでセオストの危機を救えば英雄の仲間入りですからね。女の子にモテモテですよ」
「調子のいい野郎だ。しかしそんなにも英雄になりたいのなら、イザという時は見捨てるとしよう。任務の最中に命を落とした方が美談としても、それらしくなるからな」
「ちょ! 許してくださいよ~! アレクシスさん!」
「なんだ。モテるチャンスだぞ。そう遠慮するな。お前の大好きな女の子達が、お前の墓の前で泣いてくれることだろうさ」
「意味ないじゃないですか!」
ワハハと笑いながら俺は森の中を進み、それほどせずに問題の場所へたどり着いた。
が、しかし、その場所には何も無かった。
「……やっぱり何もありませんね。既に逃げ出したのでしょうか」
「だろうな」
俺は新種の魔物を見つけたという男に返事をしながら地面に触る。
森の中だ。背の低い草なんかは生えていてもおかしくはないのだが……そこには何も無かった。
近くにある木もまるで何かが嚙みついたかの様に、削り取られている。
「とんだ悪食野郎だな」
「アレクシスさん?」
「お前ら……新種の魔物の写真を撮れなかったと言っていたな。何故だ? 撮影用の魔導具は持っていたんだろう?」
「え、えぇ。もちろん持っていましたが。撮ろうとした瞬間、こっちに向かって飛び跳ねて……その」
「魔導具を食っちまったか?」
「っ! 分かるんですか!?」
「あぁ。だろうなと思ったよ」
俺は何となく魔物の生態が分かり、目を細める。
「どうやらお前らが見つけた魔物は魔力が大好物の様だな。魔力のありそうな物はなんでも食おうとしているみたいだ」
「え? でも魔物ならみんなそうじゃないですか?」
「んなワケあるか。肉食の奴は肉を、草食の奴は草しか食わん。だが、コイツは見境なしだ。肉も草も……魔導具もな」
「……!」
俺とヴィル以外の全員がゴクリと唾を飲み込んだのが分かった。
どうやら状況は理解したらしい。
「これは思っていたよりもやばい奴の可能性が高いな。もしコイツがセオストに潜り込んだら大惨事だぞ。魔導具や魔物の死骸だけじゃない。魔術を使おうとしている人間まで食うかもしれん」
「で、でも街壁は越えられませんよね!?」
「バァカ。水の塊みたいな魔物なんだろう? なら隙間から入り込む可能性はいくらでもあるだろうが」
「っ! た、確かに!」
「とにかく、だ。一刻も早く組合長にコイツの事を知らせて……」
と言いかけた瞬間、俺は地面が揺れる感覚に周囲を見渡した。
「アレク」
「……なんか分かるか? ヴィル」
「あぁ。どうやらもう既に手遅れみたいだ」
「マジかよ」
俺は近くにある背の高い木の向こう。
空を覆い隠す様に透明な何かが地響きを立てながら……『歩いている』
そう。それはまるで透明な体の巨大な人間だった。
巨人とでも言うべきだろうか。
俺よりもずっと高い木が足の大きさくらいしかない、とてつもなく大きな巨人がゆっくりと足を踏み出しながら歩いている。
そして、一歩、一歩と足を踏み出す度に地面を揺らしていた。
冗談みたいな光景だ。
「アレク……! 奴の向かっている方向は?」
ヴィルの焦った様な声に、俺は巨人の向きと、俺の位置。
それから空と木々の位置から奴の向かっている方向を察し、舌打ちをした。
「どうやら最悪の状況だ」
「……」
「奴が向かっているのはセオストだ」
俺の言葉におそらくは成長途中であった奴を発見したパーティーの連中は顔を青ざめさせて、ヴィルは心を決めたような顔をした。
が、ヴィルの役目はそれじゃない。
それは俺の役目だ。
「ヴィル。セオストへ行って、組合長に最悪の知らせを届けてやってくれ」
「お前は?」
「決まってんだろ?」
俺は銃を一挺懐から取り出すと、右手で構えてデカ物を睨みつけた。
「セオストは任せたぞ。ヴィル」
「……死ぬなよ」
「へっ、当たり前だろ」
俺は軽く吐き捨てて、時間稼ぎをするべく巨人へ向かって走るのだった。




