第41話『世界に潜む|思惑《あくい》』
空を飛び、ビームを放つロボットと戦い、ヤマトの民と呼ばれる人に助けられ、ボロボロながら何とか勝利する事が出来た。
そして、気絶している間に、傷を癒してもらった俺は、立ち去ってゆく彼らを見送り、森からこちらに向かってきたヴィルヘルムさんと合流するのだった。
「リョウ!」
「ヴィルヘルムさん。申し訳ございません。わざわざ」
「いや、それは構わないけどな。お前、大丈夫か?」
「はい。服はボロボロになりましたが、何とか」
「そうか……」
ヴィルヘルムさんは安心した様に深く息を吐いて、俺の近くに転がっていたロボットの残骸を見る。
「これが、お前たちに襲い掛かって来たっていうロボットか」
「はい」
「何か覚えはあるか?」
「いえ。俺も初めて見ましたね」
俺の返答にヴィルヘルムさんはふむ。と呟きながらロボットの残骸を観察していた。
しかし、情報らしい情報は見つからない様で、ため息を吐きながらロボットから離れるのだった。
そして、ヴィルヘルムさんはそれ以上の調査を諦め、ロボットの一部を持ち、森へ行く事を提案するのだった。
それから、俺は森の中をヴィルヘルムさんと進み、いくつかの話をする。
「アリア姫様たちは……」
「既に森を抜けて、シナード領近くの隠れ家に向かったよ。無論ココちゃんも一緒にな」
「それは良かったです」
「だけど。驚いたよ。魔女……あー、いや。ジーナが空から突っ込んできてな。お前が危ないってさ」
「ジーナちゃん……」
俺が考えている以上に、ジーナちゃんに気に入られていたんだなと、嬉しさを感じながら深い森の中を歩きつつ、襲ってきた魔物を斬り捨てながらここには居ない少女を想う。
「噂で聞いていたよりも純粋な子だった様だな」
「はい」
「まぁ、しかし。突然現れて、俺が行くって決まった即時転移魔法はな。流石に驚いた」
「そんな事になっていたんですね」
「あぁ。だから、まぁ。向こうでジーナに会ったらリョウから上手く言っておいてくれ。いきなり転移されるとビックリするってな」
何の準備もなく先の情報が分からない場所に転移するのは、相当な恐怖だろうし、ヴィルヘルムさんだから対応出来ただろうけど、普通の人では難しいだろう。
だから、滅多な事ではやらない様に言うべきだろう。
現状、ジーナちゃんとかなり仲が良いであろう俺が。
「責任重大ですね」
「あぁ。これからどれだけ被害が出るか分からないからな」
「分かりました」
俺は苦笑しながら、森の中を走り、どうやってジーナちゃんを説得するか考えるのだった。
そんな中、ふと思い出したかの様にヴィルヘルムさんが俺を見ながら口を開いた。
「そう言えば、リョウ。お前、よくあのデカい奴を相手に無事だったな」
「いや、無事では無かったのですが」
「そうなのか? 怪我をしている様には見えないが……戦闘も普通に出来ているし」
「それは理由がありまして」
「理由?」
俺は天霧瞬さんと一緒に居た幼い少女の事を想い出して、ヴィルヘルムさんに話す。
「実は、アレと戦っていた所、ヤマトの人に助けてもらいまして」
「ほぅ」
「その後、その人と一緒に居た少女に助けられたんです。名前はミラと呼ばれていました」
「ミラ……? ミラ・ジェリン・メイラーか」
「ちょっとフルネームは分からないですけど」
「あぁ、悪いな。いや、お前を助けた一団が分かったよ」
「そうなんですね」
「おそらくは……とは言ってもほぼ確定だが、俺やアレクに依頼してきた男の仲間さ」
「……なるほど」
そこまで話してヴィルヘルムさんは不意に足を止めた。
そして、俺をジッと見ながら口を開く。
「リョウ。悪いんだがな。一つ約束して貰えるか?」
「えっと? まぁ、ヴィルヘルムさんのお願いなら大抵の事は良いですよ。桜に関係する事なら微妙ですけど」
「ふっ、大丈夫だよ。サクラちゃんは関係ない。いや……むしろ巻き込まない為には黙っていて貰った方が良いかな」
「黙っている?」
俺は予想していなかったヴィルヘルムさんの言葉に首を傾げた。
そんな俺を見て、ヴィルヘルムさんは微妙な顔を浮かべると、やや遠くを見ながら言葉を続ける。
「ミラ・ジェリン・メイラーという少女はな。ヴェルクモント王国という国の貴族だったんだがな。聖女の力に目覚めたんだ」
「聖女?」
「リョウの傷を治した力だよ。特別な力でな。使える人は滅多に居ない」
「……聖女セシル様と同じ力ですか?」
「あぁ。そうだな」
「なるほど」
俺はヴィルヘルムさんの言葉に頷きながら、例の少女を思い出す。
確かに、少し特殊な空気を纏っている様に見えたが、それでも普通の少女の様にも見えた。
「だからな」
「……?」
「聖女という存在は、狙われるんだよ」
「傷を癒すという力が利用できるから、ですね?」
「そういう事だ。だから彼女たちの存在はあまり大っぴらに話す様な事じゃないんだ」
「分かりました。では、今回俺が出会った奴は、それなりに強かったですが、俺が強かった為、一人で撃退出来た。というシナリオで良いですか?」
「あぁ。そういう話にしてくれると助かる。俺が行った時には全部終わってたってな」
俺はヴィルヘルムさんとそんな話をして、笑っていたのだが、ふと一つの疑問が頭の中に浮かぶ。
「しかし、そうなると、あのミラという子は大丈夫なんでしょうか? 三人で旅をしている様な感じでしたが」
「それに関しては問題ない」
「そうなんですか?」
「あぁ。ミラちゃんと一緒に居るのは、オーロっていう男でな。俺やアレクの兄貴分なんだが……まぁ、世界の誰よりも信頼できる男さ」
「……それは良かったです」
「それに、一緒に居たヤマトの男。天霧瞬も強かっただろ?」
「はい。結局、最後にアレを倒したのは天霧瞬さんですからね」
あの技……。
居合ではあるのだが、それ以上の何かを感じた。
ただの技を超えた何かを。
いや、そうか。
もしかして、神刀と呼ばれる刀にはそう呼ばれるだけの力があるという事か?
俺の持っている刀も、神刀として、そう呼ばれるだけの力があるのか?
俺は右手に握った刀をジッと見つめながらそんな事を考えるのだった。
「どうした? リョウ」
「いえ。またいずれ、あの人たちにまた会いたいなと思いまして」
「まぁ、オーロ達はセオストに拠点があるからな。時が来ればまた会えるさ」
「それは嬉しいですね。是非今回の件でお礼言いたいですし」
俺は笑顔でヴィルヘルムさんに応えながら、心の中では更なる力を求めて、天霧瞬さんに接触しようと考えるのだった。
あの人と接する事で、俺も先の領域へ足を踏み出す事が出来るかもしれないと。
「そういう事なら、今回の依頼が終わったらセオストで会うか?」
「早く会えるならその方が助かりますね」
「分かった。じゃあ依頼が終わったらな」
「はい」
そして、俺はヴィルヘルムさんと再び森の向こう側を目指して走り始めた。
向こうではアリア姫様が待っているという事で、なるべく足を急がせる。
まずはこの依頼を終わらせる必要があるのだ。
その為に再び気合を充填させて急ぐのだった。
それから約半日ほど走っていた俺とヴィルヘルムさんは森を抜けた所でキャンプをしていたアリア姫様たちと合流した。
そして、心配していたのだろう。
涙を流しながら突撃してきたジーナちゃんとココちゃんを受け止めるのだった。
「無事で良かったよぉー!」
「おにいちゃん!!」
「あぁ、何とか助かったよ。二人のお陰かな」
俺は地面に押し倒され、服を涙と鼻水で汚されながらも、妹の様な存在である二人を守れたことに一定の満足を得て、目を閉じるのだった。




