第39話『遥かな|刀閃の先《もくひょう》』
間一髪。
そんな言葉が頭に浮かんで消えた。
そうまさにギリギリの事であった。
ロボットから放たれたビームの様な光を横に飛ぶことで避けた俺は、先ほどまで自分たちが居た場所がビームによって貫かれ、焼けている事を確認する。
直撃すれば命はない。
「ジーナちゃん!! ココちゃんを頼む!」
「っ! リョウ君は!?」
「俺は、戦う!!」
俺はココちゃんをジーナちゃんに預け、石を拾ってロボットに投げながら森の外へと走った。
そして、刀を抜き、飛んできたビームを半ば無意識の内に、斬る。
「っ! 斬れる!」
本来であれば、ビームの様な高熱で刀は歪んでしまうか折れてしまうだろうに。
ビームを両断した後も、平然と何も変わらない姿でそこにあった。
頼りになる相棒だ。
「森を進めば、ヴィルヘルムさん達が居る! そっちへ行ってくれ!」
「でも!」
「ココちゃんを傷つけるわけにはいかない!!」
俺はジーナちゃんと話しながらも、続けて放たれたビームを斬りつつ、ロボットから距離を取った。
防ぐことは出来ているが、油断すれば危うい。
精神を集中させなくてはいけない。
「もー! しょうがないんだから! なら、ココちゃんを安全な場所に連れて行くから、その魔導具使って!」
「知って……」
「分かるの! 視えるから! もう良いから使って! 使わないと、私、行かないからね!」
「分かった」
俺はポケットからアリア姫様に渡された魔導具を手に取ると、握りつぶした。
瞬間、俺の立っている場所に何やら円形の複雑な文様が生まれ、空に解き放たれる。
「じゃあ、行くよ! ココちゃん!」
「待っ! お兄ちゃんが!」
「待たない! 急いで戻らなきゃいけないんだから!」
そして、ココちゃんを連れたジーナちゃんは森の木よりも高い場所へと飛び上がり、遥か彼方へと勢いよく飛んでゆくのだった。
「……魔法使いの魔力を探知」
しかし、それに気づいたロボットがジーナちゃんが飛び去った方を見て、飛び立とうとしているのが見えた。
「行かせるか!!!」
俺は地面を強く蹴り、ロボットに向けて刀を向けながら飛び込んだ。
突きの動きで、頭を落とそうと狙う。
しかし、ロボットはジーナちゃんから俺に顔を向けて、ビームを放った。
「っ!」
俺は何とかロボットの体を使って体を反転させ、直撃を交わしつつ表面を切りつけたが、傷もつかない。
しかも、避けきれなかった肩が一部焼かれてしまう。
痛みはあるが、血は流れない。
高温で熱せられているから止血されているようなものか。
「しかし、やはり直撃は出来ないな」
「脅威を確認。優先的に排除する」
「……なるほど。それは助かる。じゃあ、俺と遊んでもらおうか!」
俺は再び刀を構えてロボットに挑むのだった。
とは言っても、やることはそれほどない。
援軍は来るのだ。無理に攻める必要性などどこにもない。
ただ、受け流し、ただ、コイツをどこにも行かせない。
それだけでいい。
それがどれだけ神経を使い、どれだけ厳しい戦いかという事はよく分かっているが……それでも、それが必要だというのなら、やってみせよう。
俺は、深く呼吸を繰り返し、全身に命を巡らせた。
「……さぁ、行こうか」
研ぎ澄まされた心で、刃の様に澄んだ瞳で、ロボットの動きを見据える。
その先を。
ロボットも俺の気配が変わったことに気づいたのか、動きを変える。
ただビームを撃つだけの単調な物から、両腕を使い複数の攻撃を織り交ぜた物へ。
そして、両足だけでなく、体を浮かせながら飛び回る様な動きも含めてきた。
中々の難敵だ。
生き残ることさえ難しいだろう。
しかし、それだけだ。
不可能ではない。
ただ、難しいだけの事象に、何ら焦る様な事は無いのだ。
「っ!」
高速で動き回るロボットが放つビームをギリギリで避けた。
何度か見て気づいたが、ロボットはビームを撃つ瞬間に動きを止めるらしい。
ならば、動きを止めた瞬間に顔が向いている方にビームは放たれる為、その方向を見極めて近づけば良い。
……失敗した。
どうやらビームを撃ちながらでも、手足を動かす事は出来るらしい。
という事は手足をまずは破壊する必要があるという事だろう。
次だ。
ビームを避ける時、大げさに避け過ぎれば、ロボットが俺よりも早く動く事になってしまう。
ならば、受けながら進めばいい。
多少かすった所で致命傷にはならない。
ギリギリのさらに内側。
もう一歩踏み込んだ所に俺が向かうべき場所がある。
「……ここだッ!」
俺はビームを避けて、ロボットの内側に入り込み、腕に殴り飛ばされながらもその腕を切り落とした。
関節部を狙って刀を振り下ろしたのだ。
いかに固い外殻であっても、これは防げまい。
「ふっ! はっ!」
空を飛び、衝撃を受け流しながら地面に降り立って笑う。
想定通りだ。
体の周りがいかに堅そうに見えたとしても、つなぎ目の部分はどうやっても強固には出来ないのだ。
ならば、後3回。
後三回同じことをすれば俺の勝ちだ。
「……次、行くか!」
体は痛みを信号の様に発しているが、それが何だというのだ。
まだ戦える。
まだ先に進める。
まだ俺は……!
「おい」
「っ!?」
ロボットに向かって意識を集中させて飛び込もうとしていた俺は、不意に聞こえた声に視線を向けようとした。
しかし、ロボットのビームに阻まれて、その声の主を見る事が出来ない。
「俺が道を開く。お前が残った左腕を落とせ」
「……助かる」
冷静な男の声に、俺は少しだけ冷静さを取り戻しながら頷いた。
そして、息を吐きながら意識を集中させていた俺に放たれるビームを、その男が俺の前に立って切り裂くのを見て、俺は飛び上がった。
ロボットはビームを撃つとき、動きを止める。
ならば!
ビームを撃っている間に、切り落とせば良い!
「終わりだ!!」
俺は空からロボットの残された左腕に刀を振り下ろして腕を両断した。
しかし、どうやらロボットはまだ動く事が出来るらしく、地面を爆発させながら空へと飛び上がった。
おそらくは空からビームを放つつもりなのだろう。
「っ!」
「構わん。後は俺がやる」
「……!?」
そして、俺の援護をしてくれた男は腰に差した刀を握り……神速の居合を空に居るロボットに放った――。
「天斬り……!」
何が起きたのかも分からない。
ただ、空から降り注ごうとしていたビームは両断された。
さらにロボットも呑気に浮かんでいた雲ごと縦に分断され、耳を塞ぎたくなる様な轟音と共に爆発した。
「……すごい」
これが居合の極致かと、俺は霞む視界の中で男を見据えた。
「終わりだな」
「……助かりました」
「よく言う。別に俺の助けが無くても何とかなっただろう」
「それでも、今こうして立って貴方と話をする事が出来ますからね……っと」
俺は男と話しながら、血を流し過ぎたかふらつく体で笑いかける。
「無理をするな。俺の仲間に傷を治せる奴がいる。そいつが来るまで寝てろ」
「……そう、ですか。じゃあお言葉に甘えて」
俺は疲れたと言いながら地面に座り、身を投げ出した。
今更ながら全身の痛みが襲ってくる。
笑えるくらいにボロボロだった。
「……はぁ、つかれた」
「お前」
「なんですか?」
「ヤマトの民か?」
少々難しい質問が来て、俺は想わず黙ってしまった。
今までであれば頷いていたが、ここは難しい。
何故なら、今俺に話しかけている男は、ヤマトの人間の可能性があるのだ。
俺と同じ様な刀を持ち、あのロボットを容易く処理できる戦闘力。
噂に聞いていた通りの存在だ。
「……もし、違うと言ったら?」
「別にどうもしない。どの道お前は神刀に認められているのだ。ならば俺から言う事は何もない」
「そう、ですか」
「ただ、そうだな。名を教えてくれ。巫女姫様に確認を取りたい」
「……小峰亮」
「助かる。亮」
俺は疲れ切って動かない口を何とか動かして名を伝えた。
しかし、男の名を聞くのを忘れていたと言葉を紡ごうとしたが、その前に男が伝えてくれた。
「聞くだけでは失礼だな。俺は瞬。天霧瞬だ」




