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異界冒険譚  作者: とーふ
第8章『柊木百合』
329/336

第329話『|アリア様の騎士決定大会《新しい戦い》13』

 さて、いよいよアリア様の近衛騎士決定戦の二日目となった訳だが。

 俺の相手はそこまで強いとは言えない相手ばかりであった。


 獣人であれば、デールくらいの強さはあるのだが、ギハルトさんくらい強い相手はいない。

 正直期待外れという様な相手ばかりが続いていた。


 人間の騎士はと言えば、強い人でもデールと同じくらいの腕であり、正直な所そこまで戦いたいと思う様な相手ではない。

 そして、流石に一般市民の様な方々は残っておらず、最低限戦いにはなるが、最低限の戦いしか出来ないという様な状況であった。


 ここでふと疑問に思ったのは、シーメル王国の王城で戦った際に居た人々はどこに消えたのかという話だ。

 ギハルトさんと同じくらい強い人が確かに存在していたハズである。


「お前の不満に応えようか。リョウ」

「ギハルトさん……!」


 俺がつまらないなと思いながら俺では無い人の試合を見ていると、隣に座ったギハルトさんが軽い調子で話しかけてきた。

 どうやら先日の戦いで仲間の様に思って貰えたようである。


「今回の戦いだがな。実の所。俺と同じくらいの奴は俺以外は出ていないんだ」

「そうなんですか?」

「あぁ」

「でも、アリア様の騎士を決める大会ですよね?」

「そりゃ出たくなかったのか? と問われれば出たかっただろうさ。でもな。姫様は人間の騎士を求めていたし。あんまり俺達が荒らしまわるのも違うだろう。って話になってな。俺が代表として出たんだよ」

「なるほど」


「もし万が一俺が負けても、それだけ強い騎士が居るのなら、姫様の願いは叶う事になる。んで、もし俺が優勝しても決勝には一番強い人間の騎士が来るだろうし、そいつが近衛になるだけだ。なら、問題はねぇだろ?」

「確かに。というか、結構冷静だったんですね」

「そりゃそうだ。姫様に嫌われたくはねぇからな。自重するところは自重するさ」


 当たり前だろ。とでも言う様な空気でギハルトさんはそう言った。

 そして、腕を組みながら獣人同士で行われている試合を見やる。


「しかし、情けないとは思わないか?」

「流石に情けないとまでは思ってないですよ」

「そうか。俺は嘆かわしいがな。我ら誇り高き戦士がこの程度とは……!」

「そうですか? デールと同じくらいは強そうですけど。人間相手なら十分なのでは?」

「バカを言うな。デールの奴はまだまだ子供だぞ。しかし、今戦っているのは大人の戦士だ。しかし、デールと同じくらいの強さしかないという事は、人間の騎士と同程度という事になる」

「いや、流石に……人間の騎士でも上澄みだと思いますけどね? デール並みに強いのなら」

「しかし、上澄み程度で追いつかれるのであれば、獣人としては駄目だという話だ。我らは魔術が使えないのだからな」

「なるほど……そう言われると確かにそうですね」


 俺はギハルトさんの言葉に強い説得力を感じ、大いに頷いた。

 だが、忘れているかもしれないが、これは大会なのだ。


「しかし、そこまで気にしなくても良いのでは?」

「どういう意味だ?」

「これはあくまで試合ですよ。戦う場所を指定されて、戦い方を指定された物だ。なら、獣人としての動きはかなり制限されていると思います」

「……まぁな」

「ならば人間と同程度に見えてしまうのも仕方ない事かと思います」

「そういうモノかね。俺ならその程度の制約は全て破壊して勝利を掴めるが。それに……お前だってそうだろう?」

「まぁ、それはそうなんですけど」


 何とも難しい話である。

 結局は弱いから駄目なのでは無いかという結論は何も変わっていないのだから。


「まぁ、弱いのなら強くなれば良いんですよ」


 そして、考えに考えた結果。俺は考えるのを止めて結論を投げた。

 しかし、ギハルトさんも特に気にせずその結論に同意する。


「そうだな。まったく、全てお前の言う通りだ。この大会が終わったら鍛え直しだな」

「頑張ってください」

「あぁ。お前も暇なら手伝ってくれ。良い刺激になる」

「いやぁ……俺は」

「姫様から聞いたぞ。シーメルにも拠点を作るのだろう? ならば姫様の為だ。少しくらいは手伝え」

「その話……どこから聞いたんですか」

「姫様だが?」


 当たり前だろ。と言わんばかりに返された言葉に俺は額をペシンと叩いて項垂れる。

 アリア様め。

 当然の様に話を広めているな。


 外堀を埋める作戦だろうか。


「まぁ、そう不満そうな顔をするな。お前の家に居るココだったか? その子に友人を紹介してやる。同じくらいの年の子の友が欲しいだろう?」

「それはまぁ、願っても無いですが。良いんですか? ココちゃんは人間と一緒に生活している子ですけど」

「構わん。お前は人間に含めていない」


 今、何か酷く不名誉な事を言われた様な気がするが。

 俺はひとまず流して言葉を聞く。


「まぁ俺へのアレコレはひとまず気にしない事にして、ココちゃんの話ですが……獣人としてはココちゃんも未だ同胞と思ってくれているんですか?」

「当たり前だろう。ココだけじゃない。奴隷として囚われていた者達も皆、同胞だ」

「それは、良かったです」

「だから、まぁ、手伝ってくれるのであれば、紹介はしてやるという話だ。まぁ、そこで友好関係を築けるか。それはココ次第ではあるがな」

「それはもう。機会が貰えるのならそれが一番ですよ」

「そうか。お前は思っていたよりも過保護では無いのだな」


 何だか俺の評価がとんでもない事になっている様な気もするけれど。

 俺はひとまず気にしないまま言葉を返す。


「そんなに過保護に見えます?」

「見える。というか、王都での一件を聞いてな。ココや幼い同胞を護るために、お前が人間に刃を向けたと聞いた。そして激しい怒りを向けていたともな」

「あぁ……あの一件ですか」

「それで、知ったという訳だ。同時に興味もあったな。人間で獣人の味方をする奴は少ないからな」

「エルネストさんの家のお子さんも偏見とかは無さそうですけど」

「子供だからな。大人になるウチに変わるさ。大抵の奴はな」


 まるで経験してきたかの様に語るギハルトさんに俺はそうですかと頷く。

 そして、彼との話も盛り上がって来た頃、ちょうど俺の番が着て、俺は神刀を手に会場へと向かった。


「色々と話せて楽しかった。また話そうか。リョウ」

「えぇ。こちらこそ」


 俺はギハルトさんに手を振り、戦いの場へと向かった。

 目の前に立っているのは人間の騎士であるが、先日の騎士とは違い気合も十分という所の様だ。


「フン。獣人なんぞと慣れあいおって。アリア様の騎士を目指すのならば、腑抜けた態度を取るな」

「アリア様は獣人と人間の融和を望んでいると思いますが」

「アリア様は母国が焼かれ、動揺してらっしゃるのさ。今こそ我らが支える必要がある」

「ふむ」


 まぁ、人間の騎士ならこんなモンなのかと俺はため息を吐いた。

 でも、ギハルトさんやデールを見る限り、獣人も似たような物だし。

 シーメル王国は本当に色々と厄介な国だなぁ。


 と、俺はアリア様を横目でチラリと見ながら考える。


 そして、そんな俺の視線に気づいているのか、アリア様は苦笑しながら小さく頷いた。

 妹は今、困っています。という所か。


 これは兄としてどうにかしてやらなきゃいかんのかね。

 レオさんに獣人をお願いし、俺が人間を?

 部外者の俺に出来るのかは分からないが、強さと人間だという事はアピールできるか。


「フン! 矜持を教えてやる! 騎士の矜持だ!」

「試合開始!」

「てりゃああぁああああ!!」


「……一閃!」

「ば、バカな!」


 ならば、やることは……やはり大会に優勝して、人間の騎士の補佐について、改革を手伝う様な形になるのかね。


 それがアリア様の望んでいる事だろうし。

 人間の貴族が望んでいる事だろうし。獣人達も望んでいる事なんだろう。


 ならば、アリア様の為にも。

 ココちゃんのお友達の為にも。


 俺が頑張るしか無いか……。

 と俺は覚悟を一つ決めるのだった。

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