第327話『|アリア様の騎士決定大会《新しい戦い》11』
アリア様の提案により、俺はシーメル王国に拠点を一つ持つ事になってしまった。
なんてこったである。
「うーん」
「どうするの? お兄ちゃん。唸ってる場合じゃないよ」
「そうなんだけど、どうしたものかなと思ってさ。桜はどうすれば良いと思う?」
「私に聞かれても困っちゃうよ。困難に立ち向かうのがお兄ちゃんの役目なんでしょ」
「う……! それを言われると困っちゃうけども」
俺は桜のジトっとした目から逃れる様に視線を外した。
が、それで俺の責任が消える訳ではない。
やるべき事はやらねばならんのだ。
既にアリア様はご自身の拠点に戻ってしまったが、このままではなし崩し的に騎士になってしまう。
「こうなったら仕方ない。俺がガツンと言うよ」
「お兄ちゃんに出来る?」
「お兄ちゃんだから、やらなきゃな」
俺は覚悟を決めて、明日アリア様にもう一度相談してみる事にした。
だが、その前に桜へ少しだけ相談をする。
「ところで桜」
「なぁに?」
「シーメル王国に拠点を構えるというのは……桜としては、どうなんだ?」
「別に私としては何も困らないよ。お兄ちゃんが必要だって思うのなら、それも良いんじゃないかな」
「なるほど」
「シーメル王国にはココちゃんのお友達もいる訳だし。気軽に来ることが出来るのなら、交流は出来るよね」
「……確かにな。ちなみに、セオストはどうなんだろうか?」
「一部の人はココちゃんも普通の子と同じ様に接してくれるよ。でも……獣人だからって嫌な顔をする人はいる」
「……!」
「でも、お兄ちゃんの事は有名だし。ココちゃんがお兄ちゃんの家族だって有名だから直接変な事をする人は居なかったけどね」
「何か言われたりはした?」
「っ! よく分かったね!」
「まぁ、こっちに来る前に冒険者組合の建物で色々あってね……あ、いや。でも、それの牽制っていう意味でもアリか」
「……?」
桜が不思議そうな顔で俺を見ているのを感じながら、俺は桜に笑みを返した。
そして、思いついた事を桜に共有する。
家の事は桜に聞くのが一番だからだ。
「実はさ。セオストの冒険者組合でちょっとしたトラブルがあってさ」
「うん」
「セオストの冒険者組合にちょっと圧を掛けようかなって思っているんだ」
「そうなんだ」
「ちょっと笑って終わらせられない問題だし。シーメル王国のアリア様に繋がりが出来たから、あっちを拠点にしても良いんだぞって言おうかなって思ってて」
「うん。良いんじゃない?」
「結構アッサリ頷いてくれるね」
「だって、お兄ちゃんが必要だって感じてるんでしょ」
「まぁ、ね」
「それに、多分、ちょっとしたトラブルってココちゃんの事だよね?」
「っ! よく、分かったね」
「そりゃ分かるよ。お兄ちゃんがそれだけ怒るのなら、家族の事しかないけど、冒険者組合で問題が起こるならココちゃんの事だろうからさ」
聡明な桜には全てバレていたらしい。
俺は流石は桜だなと思いながら大きく頷いた。
そして、これから起きる可能性や俺の考えも一緒に伝えてゆく事にした。
「だから、セオストとの交渉次第ではセオストの拠点は捨てるか……」
「お兄ちゃん」
「うん?」
「捨てるのは、ちょっと困るよ。残しておいては欲しい。そこに定住しなくても良いから」
「そっか。分かった。まぁ、あくまで選択肢の一つってだけだったけど、嫌なら選択肢からも外そう」
「ありがとう」
「いや。こういうのはお兄ちゃんの勝手で決める物じゃないからね。桜の意見は大事なんだよ」
俺は少し不安そうな顔をしている桜の頭を撫でて、安心して貰う。
そして、ならばと話の方向性を変えて再び話を続けた。
「じゃあ、ちょっと変えよう。セオストの拠点はそのままで、シーメル王国とか他の国に拠点を持つ。それでそれぞれを繋いで、活動をする。こんな感じでどうかな?」
「うん。私は良いと思うよ。それで……交渉とかはどうするの?」
「とりあえず、他の場所に拠点を作ってからかなぁ。言葉よりも実際に物があるって状態の方が交渉もうまく行くだろうし。それで、その状態でココちゃんに関する事のお話合いかな。どういう形に持って行くのが望ましいのか。俺もまだ結論は出せてないけど、ココちゃんが嫌な想いをしてまでセオストに居続ける理由は無いからね」
「そうだね……。それは確かに」
「という訳だからさ。桜には迷惑をかけるけど、少しドタバタするよ」
「まぁ、それはしょうがないでしょ。私だって、このまま嫌な感じで終わるのは嫌だしさ」
「あぁ」
という訳で、桜とのお話合いも終わり、そろそろ良い時間だからと桜をテントまで送り届け、俺も寝ようとしたのだが、そこに一人のお客さんがやってきた。
それは、ここまで色々手伝ってくれた上に、今回の拠点移動計画を桜と一緒に考えてくれたジーナちゃんであった。
「リョウ君」
「うん。どうしたの? ジーナちゃん」
「ちょーっとお話しても良い?」
「あぁ。大丈夫だよ」
どこか、人には聞かれたくないという空気を出しつつ呼び止めて来たジーナちゃんに、俺は了承を返してジーナちゃんと共に少しテントから離れた場所へと移動した。
そして、周囲に人が居ない事を確認して、ジーナちゃんからの話を聞く。
「さっきね。サクラちゃんと話している話が聞こえて来てさ」
「うん」
「お引越しの事、話してたでしょ?」
「あぁ。ジーナちゃんのお陰で色々とうまく行きそうだよ」
「そうなんだー。それは良かった。それでさ。実はお願いが一個あって」
「一個でも二個でも。ジーナちゃんのお願いだからね。無理な事は無理だけど、出来る限り叶える様に頑張るよ」
「うん! ありがと! それでさ。実はースタンロイツと、その奥にある森に家を作りたいの」
「それは……構わないけど、一応理由を聞いても良い?」
「うん。実はね。ジーナちゃん。森の奥で生まれてさ。その場所にたまに帰ってるんだ。それで、これからも同じ感じでやっても良いんだけど。家とかがあると便利だなぁーって。ママも。一緒に暮らせるしさ」
「森の奥にお母さんがいるの!?」
「うん。あ、とは言ってもジーナちゃんと同じ魔法使いじゃないけどね。大きな神獣って呼ばれる魔物とは違う生き物」
「なるほど……」
「それでさ。そのママが一度リョウ君にも会ってみたいって言ってて。でも、ママも忙しいから、家があればそこで会えるかなーって」
「まぁ、俺は大丈夫だよ。問題なし。問題があるとすれば職人かなぁ」
「そこは! リョウ君にお願いって事で!」
ジーナちゃんは両手をパンと合わせて俺にチラッと目線を向けた。
その姿は甘えん坊の妹そのもので、俺は仕方ないなぁとため息を吐きながらもジーナちゃんの提案に頷くのだった。
そして、話も終わり、満足したジーナちゃんが寝るねーと手を振りながら去って行こうとしていたのだが。
ふと、空を飛んでいたジーナちゃんが空中で停止すると、俺の方に振り返ってやや真剣な顔で言葉を向ける。
「リョウ君。家だけどね。ヤマトにも作っておいて」
「ヤマトにも? それは……姫巫女様との交渉になると思うけど」
「うん。交渉に関しては、頑張ってって言うしか無いんだけど、コトが起きた時にヤマトにすぐ行かなきゃいけないかもしれないから」
「コト?」
「そう。コト。世界を揺るがす様なコト。それほど遠くない未来に起きるんだ。きっとね」
「それは……止められないの?」
「難しい、かな。私でも、アリアちゃんでも桜ちゃんでも……おチビさんでもね」
「そうなんだ」
俺はジーナちゃんが感じているであろう不安と、最近触れて来た事件や何やらを重ねて、はぁとため息を吐いた。
どうやらこの世界も中々に面倒が多いらしい、と。




