第324話『|アリア様の騎士決定大会《新しい戦い》8』
ギハルトさんとの激闘で、俺は心身共に疲れ果ててしまった。
が、アリア様のご厚意もあり、今日はこれ以上の対戦は無しという事で、ゆっくりとする事になった。
その間に、別の人たちが戦う事になるのだが……。
「冷静に考えると、コレはズルいのでは?」
「そうなのですか?」
「いや、だって。俺が休んでいる間に他の人たちは戦っている訳ですよね。それだと戦う回数が明らかにおかしい様な」
「そうでも無いですよ。だって皆さん。まだ二回くらいしか戦ってませんし」
「はい?」
ミクちゃんの言葉に俺は首を傾げた。
いや、だって。
俺はもう四回戦闘しているのに、他の人は二回って、どういうトーナメントなんだ。
「何か逆に不公平を感じて来た様な?」
「だからー。こうしてリョウさんを休ませてる間に他の人たちの試合をしてるんじゃないの?」
「そう言われると、確かに」
俺はモモちゃんの言葉に納得しながら、試合へと目線を向けた。
が、何と言うかな。
先ほどのギハルトさんとの戦いとは違い、平和というか、何というか。
牧歌的と言っても良いかもしれない。
一回目に戦った騎士と似たような姿の騎士が、似たような姿の騎士と戦っているのだが。
互いに鎧と盾の防御力が高すぎて、決定打がなく、ただ意味も無く剣を盾に打ち付けているのだ。
非情に苦しそうな顔で戦っているが、アレがどうやったら決着となるのか……俺には分からない。
「なんか、お兄ちゃんの時と全然違うね」
「んー。そうだな」
「サクラさん。リョウさん。これが普通の戦いですからね。しかも普通の騎士としては勇敢な方です」
「そうなんだ……」
「はい。剣を盾で受け損なえば、鎧が直接叩かれて中の人がダメージを受けますし。万が一防御の弱い場所を斬られてしまえば、大怪我をします。ですが、彼らはそんな恐怖を押し殺して、アリア様の為にとたたかっているのです。とても勇敢だと思います」
「ふーん」
あんまり興味がないのか適当な返事をする桜であったが、そんな桜に力説していたミクちゃんは手に汗握る戦いだ。とばかりにジッと試合を見ていた。
よくよく観察してみれば、ミクちゃん以外の人たちも結構熱中しながら彼らを応援している様だった。
なるほど。これがこの世界における普通という事か。
俺の周りにはあまりにも普通からかけ離れた人ばかりが居るから知らなかったが。
これが一般的、普通な戦いなのだ。
「ふぁぁああ。ジーナちゃん。もう飽きちゃった」
「ジーナさん! 今! 今、すごい盛り上がってますよ!」
「カンカンカンカンやってるだけじゃん。もう飽きちゃったよ。ねー。ココちゃん」
「でも……こっちの方が、こわくない」
ギュッと俺に抱き着きながら言うココちゃんに、俺は反省しつつ、後ろから言われてるぞ。とばかりに突いてくるリンちゃんに謝罪した。
反省しておりますとも。
「もー。ジーナさんは……! 良いですか? 言っておきますが、リョウさんの方が異常なんですからね。獣人というのは種族として、人間の数倍強いんです。そんな獣人相手にアッサリ勝ったり互角の戦いをしたり。その方が異常なんです」
「えー。でも、僕も獣人と互角に戦えるよ。むしろ。僕の方が強いと思う」
「はいはい。ユウキは黙っててください」
「ひどい……!」
ミクちゃんにそっけなく突き放されて、ユウキちゃんはしょんぼりしながら俺が昼に作った肉を刺していた串をチュウチュウと吸っていた。
それを見て、お腹が減ったのかな? と俺は干し肉を取り出し、ユウキちゃんの前に差し出してみる。
「っ!? 僕の!?」
「うん。あげるよ」
「わーい!」
そして、ユウキちゃんは満面の笑みでそれを受け取ると、もぐもぐとこの世の至福は全てここにあったとばかりに嬉しそうな顔をするのだった。
それを見ていると、何とも癒される物である。
「リョウさんって、結構ユウキの事、好き?」
「っ!? ぼ、僕のこと!?」
「いや、ユウキじゃなくて、リョウさんに聞いてるの。ね? どう?」
「うーん。結構好きだと思うよ」
俺は小動物の様なユウキちゃんを心に描きながら大きく頷いた。
非情に可愛らしい。
良いんじゃなかろうかね。
「ふ、ふーん。ま、まぁ? ちょっとくらいなら付き合ってあげても良いけどね」
「ユウキ。悪いけど。多分、アンタが考えてるのとは違う奴だと思うわ。リョウさんの言ってる事」
「はぁー? いや、僕のことが好きなんでしょ? ねぇ。そう言ったよね?」
「あぁ、言ったね。あ、デザートもあるけど食べるかい?」
「たべるー!!」
「はい」
「んー。うまうま」
うーん。とても可愛らしい。
良いじゃないか。
やっぱり子供はこういう風に素直に笑って、食べて喜んでいるのが良いよな。
「リョウさんって、時々凄い残酷だよね」
「そう? 子供っていうのはいつだって可愛い物だよ」
「妹狂いがそうさせるのか。こうなったから妹狂いになってしまったのか……」
シミジミと語るモモちゃんに俺は何とも言えない気持ちになりながらも、モグモグとデザートを食べていたユウキちゃんに視線を向けた。
ひとまず、餌付けもしたし。これで多少は仲良くなれたと思う。
「ユウキちゃん」
「っ! な、なにかな!? 次は!?」
「いや、ご飯は少し後でなんだけど」
「うん? うん」
「ユウキちゃんにちょっと聞いてみたいことがあってさ」
「ふふん。何でも聞いてよ。僕はゆーしゃだからね! 何でも答えられるよ!」
「なるほど。じゃあ、遠慮なく」
俺はチラリと、まだ試合を続けている騎士たちを見てから、再びユウキちゃんへと視線を戻した。
そして、未だモグモグと口を動かしているユウキちゃんへと質問を投げる。
「ユウキちゃんは、大会には出ないの?」
「うん。出ないよー」
「それはやっぱり勇者だから?」
「まー。それもあるけど、僕が出たら優勝しちゃうからね」
「へー。自信があるんだ」
「自信とかじゃないよ。そう決まってるの!」
自信満々で、ヘヘンと笑うユウキちゃんに微笑ましいものを見る目を向けながら、ふむと考える。
正直なところ、ユウキちゃんの強さはどの程度なのだろうか。
「ふふふ。何やら困っている様だね。リョウさん」
「おや。モモちゃんは俺の疑問に答えてくれるのかな? ふふふ」
俺が少し考えて居るとモモちゃんがイタズラ好きな子の顔で俺に言葉を投げて来た。
俺もそんなモモちゃんに応えながら聞いてみる。
「実際、ユウキちゃんはどれくらい強いんだろうって思ってさ」
「んー。一応、世界最強って事になってるよ?」
「そうなの?」
「うん。一応。だけどね」
「その、一応。って言い含めているのは何かあるの?」
「そりゃあ、ねぇ?」
モモちゃんは隣でニコニコと笑っているリンちゃんに話を振った。
そして、リンちゃんはその言葉を受け止めて、のんびりと続けてくれる。
「ユウキちゃんは勇者なので、世界の危機が近ければ近い程にその力を発揮するんです。かつて七度世界が滅びる様な災害が発生しましたが、その全てでユウキちゃんは人では到達できない力を発揮し、全てを解決しました」
「それは……凄いな」
「なので、世界で最も強いというのは間違いでは無いのですが、平和な時はユウキちゃんの力はそのままなので……」
「そこまで強くはないって事かぁ」
「むむ!? リン! モモ! 僕の悪口言ってる!?」
「言ってないわよ」
「はい。ユウキちゃんの強さの話をしてました」
「あ、そうなの!? 僕がサイキョーだって話?」
「有事の時はね。普段はヘナチョコってちゃんと伝えておいてあげたわ」
「むむー! へなちょこじゃないもん!」
ユウキちゃんは怒り、モモちゃんに飛びついた。
だが、モモちゃんも負けじとユウキちゃんと押し合いっこをしている。
その姿は子供そのもので、力もモモちゃんとあまり変わらない様であった。
なるほど……これは試合に出ない方が良さそうだ。
と、俺は結論を出すのだった。




