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異界冒険譚  作者: とーふ
第8章『柊木百合』
319/330

第319話『|アリア様の騎士決定大会《新しい戦い》3』

 シーメル王国の再建をしている傍ら、後回しにされている王城の跡地でアリア様の近衛騎士決定大会が開催される事になった。

 俺はそれを横目に再建を進めようと思ったのだが……何故か貴族の方々に後押しされ、出場する事になった。

 何故なら。


「このまま獣人が勝つような事になったら問題だ」


 という事なのだが……まぁ、彼らの言う通り、近衛騎士決定大会には多くの獣人が参加している。

 人間と獣人でそれぞれ近衛騎士を決めて、バランスを取るとかなんとか、そんな話だった様な気がするんだが。

 まぁ、アリア様の事だし、チャンスは平等にあるべきという事なのだろう。


 そう考えたら、優勝したのが例え獣人でも、一番成績の良かった人間の騎士に決まりそうではあるが。

 それはそれでバランスが取れていないという事か。

 まぁ、気持ちは分かる。


 心情的にも、これで獣人が勝ったら人間の敗北に見えるし、アリア様の信頼も落ちそうだという所なのだろう。

 いや、それで俺に頼っても、結局アリア様の信頼を得る事は出来ないのでは?

 と思わなくもないが、そこはこの際、仕方ないから! みたいな妥協の気持ちなのかもしれない。


 俺は人間だし。

 獣人では無いからな。


「優勝したら特別報酬を出そう!」

「まぁいただけるのなら、いただきますよ」


 という訳で、俺は特に背負う物もないまま、お小遣い稼ぎの為に大会へ参加する事になった。

 が、正直なところ、そこまでこの大会の結果に興味は無い。

 出るだけで依頼料が貰え、勝つたびに増え、優勝すれば更にボーナスが貰えるという条件だから出ただけだ。


 それに……まぁ、強者と戦えるのは嬉しいからな。

 その上でお金まで貰えるとはラッキー。くらいの気持ちである。


「じゃ、お兄ちゃん。気を付けてね」

「あぁ。まぁスポーツの大会みたいなもんだから、危ない事は何もないよ」

「それなら良いけど」

「気楽な気持ちで応援してくれたら嬉しいかな。桜たちの声援が何よりも力になるからさ」

「はいはい。がんばれー」

「おぉ、力がもう湧いて来たな」

「ふふ。おかしいの」


 クスクスと笑う桜に笑い返し、俺はまぁまぁ気楽な気持ちで会場へと向かった。



 会場に到着した俺は、サッと周りを見たのだが……どうやら騎士以外の人も結構参加しているらしく。

 街の力自慢みたいな人も参加している様に見える。

 近衛騎士とは何か。みたいな気持ちになるが、まぁそれだけアリア様が人気だという事だろう。

 良い事ではある。


「よぉ。結局お前も参加するのか? 人間」

「ん? あぁ、獣人か。そうだが、何か問題か?」

「俺達をひとまとめにするんじゃねぇ! 俺にはデールって名前があるんだよ!」

「それは奇遇だな。俺にもリョウって名前があるんだ。互いに尊重出来ると良いな。デール」

「ケッ! 気に入らねぇ野郎だぜ! ぶつかったら正面から叩き潰してやるからな!」

「あぁ、楽しみにしてるよ」

「ケッ!」


 デールはチンピラの様に地面を蹴りながらどこかへ去って行った。

 元気な事だなぁ、と見送っているとレオさんが俺に近づいてくる。


 俺が居る場所は人間が多く居る場所なんだけど、彼らは何だかんだ遠慮なく入ってくるなぁと妙に関心する。


「リョウ」

「はい。なんでしょう?」

「いや、お前も参加するのだなと思ってな」


「えぇ。まぁ……人間側も色々と事情がある様でして」

「ほぅ。お前はそういうしがらみとは別の場所にあると思っていたが」

「まぁ、俺は、コレです」


 俺は手でお金が目当てだと示して、肩をすくめた。

 申し訳ないが、俺は金目当ての部外者冒険者である。


「ふっ、そうか。まぁお前ならアリア様の左側を任せる事も出来るのだがな」

「そう言っていただけると嬉しいですけど。俺が左に居たら、いつか右を奪われるかもと心配でしょう。レオさんも」

「ふ、はははは! 相変わらず、お前は面白いな。リョウ」

「そうですか? まぁ、そう言っていただけると嬉しいですがね」


 レオさんは本当に寛大な人だなぁ、とシミジミ感じながら笑う。

 そして、ひとしきり笑ってから、そういえばと気になる話をレオさんに聞いてみる事にするのだった。


「そういえば、レオさんも近衛騎士決定大会に参加するんですか?」

「まぁ、しても良かったんだがな……その場合、大会中のアリア様が無防備になる」

「……確かに」

「だから、やるにしても俺は優勝者が決まってからだ」

「優勝者と一騎打ち、ですか? 贅沢な立場ですねぇ」

「ふっ、言っておくが、強者と戦いたいなんて理由でここに居るのはお前だけだ」

「まさか……」


 ヤマトではそんな理由の人ばかりだったが……まぁよくよく考えればヤマトだしな。

 普通の人間とはやはり感覚が違うと言うことか。

 俺も早く普通の人間に感覚を戻さねばなるまい。


「いやー。そうですね。俺もよくよく考えれば別に強者と戦いたい訳ではなく、アリア様の近衛騎士になりたいだけでしたねー」

「フン。よく言う。まぁ、どの様な理由であろうと俺は構わないがな。どちらにせよ。お前が出る事で気を引き締める者は増える」

「なるほど」

「せいぜい頑張ってくれ。一番上まで来たら、俺とも戦えるぞ」

「それは……魅力的ですね」

「あぁ」


 手を振りながら去ってゆくレオさんを見ながら、ふむと考える。

 とりあえず頑張ってみようという気持ちは湧いて来た。

 レオさんと戦えるというのは非常に魅力的だからだ。


 という訳で俺は、神刀を握りながら気合を入れる。


 そして

 待ちに待った最初の戦いが……。


「フン! 貴様か! 聞いていたぞ。アリア様の護衛をやっていたらしいな」

「……」

「だが、その場にはミク殿や勇者殿も居たという話では無いか! では貴様のやっていた事など、チョロチョロと走り回っていただけなのだろう!」

「……」

「その様な貴様が、身の程知らずにも、アリア様の近衛騎士を目指そうなどと! この私が、その身の程と一緒に粉砕してやろう!!」


「試合! 始め!!」


「だが、私は優しい人間だ。大人しく降参するのであれば……」

「あのー」

「なんだ! 話をしている最中に口を挟むなど! 無粋だぞ!」

「申し訳ございません。ですが、開始の合図がされておりますので……」

「フン! だからなんだと言うのだ! 良いか! 私はな! 道理を説いているんだ!」


 男はウダウダ、ウダウダと言葉を重ね、意味も無くしゃべり続けていた。

 いい加減初めても良いのだろうかと審判をやっているであろう人へチラリと視線を向けてみる。

 が、審判の人は俺からスッと視線を逸らしてしまった。


 どうやら関わりたくないらしい。

 まぁ、気持ちは分かるけれども。


 仕方ないかと俺はアリア様の方へ視線を向けた。

 アリア様は俺の視線に気づくと、ニッコリ微笑んで大きく頷いて下さった。

 攻撃の許可である。


「であるからして」

「じゃ、お話の途中ですが、始めますよー」


 と俺は軽く声を掛けて男の目の前に神刀を振るった。

 それだけで男は酷く焦った顔になり、腰に差していた剣を抜く。


 これで戦闘開始である。


「待て! 野蛮人め! まだ私の話が途中では無いか!」

「申し訳ないんですけど。時間も無いので、サクサクと進めさせていただきますねー」

「や、止めろぉー!」


 俺は男が顔の前で構えている剣を軽く振るった神刀で両断し、男を蹴りつける。

 それだけで男は折れた剣を握りしめたまま地面に転がる事になり……ようやく動き出した審判によって俺の勝ちが決まった。


「ま、まて! 今のは駄目だ! 私の準備が出来ていなかった」

「なるほど」

「もう一度だ。おい! 私の剣を持ってこい! これは不良品だ!」

「は、はい!」


 そして、男は再び剣を握り、俺に向き直る。


「ふふん。これで私の勝利だ」

「それは、ようござんした」


 俺は男の剣を再び両断し、戦いに勝利するのだった。

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