第299話『|巨大生物降臨《ドラゴン事変》7』
ミクちゃんから正式な許可を貰った俺は、リメディア王国の王都内を走っていた。
そして、住民を襲っている騎士らしき男を見つけ、ひとまず目の前で止まる。
「っと!」
「あん? なんだテメェは! 俺様がバクーシ帝国の騎士だと……がっ!?」
「自白ありがとう。聞く手間が省けたよ」
俺はバクーシ帝国の騎士を殴り倒し、襲われていた市民の人に声を掛ける。
「大丈夫ですか?」
「ひゃ、は、はい!」
「大丈夫です。怯えないで下さい。俺はフローラ様に雇われた冒険者です」
「フ、フローラ様に……?」
「はい。王都内のバクーシ帝国の騎士を全て排除して欲しい。という依頼でして」
「なるほど……それは助かりました」
「それで、バクーシ帝国の騎士を探しているんですが。まだ街の中にいる感じですか? それとももう城の方へ?」
「あ、えっと、分からないんですけど。バクーシ帝国の騎士は全て甲冑にこの剣と盾の紋章が」
「なるほど」
俺は街の人に教えてもらった記号を見ながら頷く。
これで聞かずとも、誰が何という事がよく分かる。
「ちなみにリメディア王国の方はどの様な紋章を見に付けているのでしょうか?」
「あ、リメディア王国の騎士様は花ですね。花の形は……!」
「あぁ。大丈夫ですよバクーシ帝国の騎士と見分けたかっただけなので! ありがとうございます!」
俺は住民の方に礼を言い、そのまま街の中を走り回った。
ひとまず悲鳴が聞こえる方へ。
そして、あらかたの騎士を気絶させてから王城の中へと飛び込むのだった。
「あん? なんだ、テメェ。ここは今通行止めだ……っ!?」
「侵入者だ! がっ!?」
入り口にいたバクーシ帝国の騎士を倒し、そのまま城内を駆けて、騎士を見つけた順に倒してゆく。
リメディア王国の人たちが困っている以上、早さが大事だ。
とにかく見つけ次第、叩き、寝かせる。
「やや? 侵入者か! ならば我が相手をしてやろう! このバクーシ最強の騎士が!」
「邪魔、だっ!!」
「ぐぁぁあああ!!」
今はとにかく、それでいい。
「貴様が侵入者という奴か! 俺はバクーシ帝国の最強の騎士!」
「居合……! 抜刀!」
「っ!? なにぃ!? 俺の剣が!」
「邪魔だっ!」
色々とうるさい男を神刀で殴り倒し、さらに奥へと走って……俺は遂に玉座へと辿り着いた。
そこには破壊された様な扉の残骸と……床に膝をついているエリック様の姿があった。
まだエリック様は生きている様で、どうやらギリギリ間に合ったという事が分かった。
「エリック様!」
「っ! おぉ……リョウか。すまないな。ゆっくりと来い等と言っておきながら」
「気にしないで下さい。それで、アレは敵という事で間違いないですか?」
「あぁ!」
「アレ、だと? 何者だ。貴様。我らを愚弄するのは許さんぞ」
「偉大なるバクーシ帝国の騎士。我らこそ最強の騎士よ」
「最強。最強。どうやらおめでたい事に、貴方達の国には最強を自称する人が多いみたいですね」
「フン! それだけ我らが精強な騎士団という事だ」
「いやいや。とてもじゃないですが。その程度で強いだなんてお笑いですよ」
「何ィ!? その挑発! 命を捨てる覚悟で行っているんだろうな!?」
「無論」
俺は少し前にヤマトで戦った人たちを思い出しながら頷く。
当然だ。
最強。なんて言葉はそんなに軽い言葉じゃない。
彼らがその言葉を得るためにどれだけ努力をしているか。
そして、俺もまた。その言葉を得るためにどれだけ己を鍛えているか。
最強は複数いるだって?
バカバカしい。
最強はこの世にただ一人だ!
たった一人で良い!
「なら、証明してくれ……! 最強を」
「フン。生意気な小僧だ」
「ならば体に教えてやるわ!」
四人の騎士は、それぞれが武器を構えながら俺に突っ込んできた。
俺はひとまず一番前に居た男の剣をかわしながら内側に入り、鎧ごと体を斬り、そのままそいつを盾にしつつ押し込んで、戸惑っている次の男を斬る。
そして、二人の存在により前が見えていない男を通り過ぎながら切り捨て。
最後に巨大な斧を持っていた男の斧の柄を切り、斧を男の頭上に落とす。
一応殺さない様に手加減はした、ハズだ。
俺も別に進んで人を殺したい訳じゃないし。
という訳で、戦闘も終わり、俺はエリック様の元へ向かった。
「大変お待たせしました。城内の掃除は終わりましたよ」
「ふ、はは、貴殿は、本当に信じられない程強いのだな」
疲れ果てて、から笑いをするエリック様に近づいて、しゃがみ、エリック様に肩を貸しながら立ち上がる。
このままひとまず外へ出ようとしたのだが、どうやら戦いはまだ終わっていない様だった。
「申し訳ございません」
「む?」
「どうやらまだ戦いは終わっていない様です」
俺はエリック様から離れ、いつの間にか倒れたモノたちの近くに立っていた男を見やった。
その男は、バクーシ帝国の騎士達とは明らかに雰囲気が違う。
「ふむ。全員一撃でやられていますね。どうやら本当に格が違う様だ」
「……」
「貴様! 何者だ! 我が城内で何をしている!」
「あぁ! これは失礼しました! ご挨拶が遅れまして申し訳ございません。私はミラー! 組織の中では運び屋と呼ばれております」
「……組織?」
「えぇ。私どもは、闇神教と呼ばれておりまして……」
闇神教という名前に俺は皇帝陛下の言葉を思い出していた。
確か、ミクちゃんに何とかしろと言っていた組織だったハズだ。
多くの犯罪者が居るという組織……!
「世界の救済の為に活動しているのですが……どうやら、そう思われてはいない様ですね」
「えぇ」
「おかしいですね。貴方とどこかでお会いしたでしょうか」
「貴方方の噂を聞いたのでね」
「噂! 噂ですか! それは良くないですね。人から聞いた話ではなく、真実を見極めなくては」
「……」
ミラーと名乗った男は大仰に両手を広げると、右足を少し上げてから、勢いよく地面に叩きつけた。
その瞬間、ぐらぐらと城が揺れる。
「ハハハ! では楽しんで下さい! これは私からのせめてもの贈り物です!」
「っ! 待て!」
「エリック様! 今は脱出しましょう!」
俺はミラーに向かって手を伸ばし捕まえようとしているエリック様を抱きかかえ、近くにあった窓から外へと飛び出した。
そして、体を反転させながら後ろへ振り返り、その巨大な姿に目を見開いた。
「なんだ、アレは!?」
「……まさか、ドラゴン!?」
その巨大なソレは、王城を踏みつぶしながらリメディア王国に降り立った。
そして、空に向かって咆哮する。
そのビリビリとした体が震える様な感覚はまさにドラゴンそのものである。
違う所といえば、リメディア王国に現れたドラゴンは全身が真っ黒であるという所だろうか。
「アレを倒します! エリック様は安全な場所へ!」
「あ、あぁ!」
俺はとりあえず勢いを殺しつつ地面に降り立って、ドラゴンが暴れている姿を横目で見ながら走った。
目指す場所は街の入り口だ。
そして、皇帝陛下達を見つけると滑り込みながらエリック様をゆっくりと地面に下ろした。
「リョウ! 無事だったか!」
「えぇ。ですが、あまり良くはない状況ですね」
「の、様だな」
皇帝陛下は王城を破壊しながら暴れるドラゴンを見上げながらふむと呟いた。
そして、俺は再びドラゴンへと向かおうとしたのだが……不意に何かが俺たちの中に現れるのを感じた。
「っ! りょ、りょうさま!?」
「俺から離れないで!」
「ひゃい!」
その気配からフローラ様を護るために抱き寄せる。
その直後、何もない空間にミラーが現れ、俺はミラーに神刀を突き刺した。
「おやおや。本当に貴方は厄介な人の様ですねぇ。あの位置からここまで、この速さで到達するのも恐ろしいが、私の存在に気づくとは」
「昔から、悪意には敏感なんだ」
「なるほど……バレた以上、これ以上は無理ですね。では本当に去るとしましょう。貴方が消える事を望んでいますよ。異国の剣士」
フローラ様を狙って現れたミラーは俺の神刀に貫かれているというのに、余裕の笑みを浮かべたまま何処かへ消えるのだった。




