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異界冒険譚  作者: とーふ
第8章『柊木百合』
296/336

第296話『|巨大生物降臨《ドラゴン事変》4』

 全ての事件が解決したと、リメディア王国に戻ってきたら、ミクちゃんが激怒していた。

 まぁ、理由は分かるけれども。


「バクーシ帝国? 何のことですか? よく分かりませんが」

「とぼけるつもりですか!? 今! そこに動かぬ証拠があるでしょう!」


 ミクちゃんは怒りのままに、ジキちゃんのお母さんを指さす。

 だが、まだ言い逃れは出来る。


「何のことか分かりませんね。こちらの方はジキちゃんのお母さんですよ。わざわざ遠方からジキちゃんを探しにこちらまで来たんです」

「ジキちゃん……?」

「ほら、先ほどリンちゃんに治療をお願いしましたよね?」

「あぁ、あの子ですか。あの子なら元気になりましたよ……って、そうではなくて!」


 上手く俺の言葉に誘導されていたミクちゃんであったが、自分を取り戻して叫んだ。

 そして、グイっと俺に近づき、言葉を重ねる。


「子供ドラゴンを傷つけられた腹いせとかで、暴れたんじゃないんですか? えぇ?」

「さて。何の話でしょうね。彼女はただ、可愛い我が子。ジキちゃんを迎えに来ただけの善良なドラゴンですから。何も悪い事などしていないのですよ」

「あやしい……」


 ミクちゃんはジトっとしあめを俺に向けてきた。

 だが、ここまで執拗に聞いてくるという事はアレだ。


 さては証拠が無いのだろう。

 ジキちゃんのお母さんがやったという証拠がなく、俺からの証言を引き出そうとしている状態だ。


「今なら穏便に済ますことも出来ますから。ね? 正直に話してくれれば」

「騙されるなよ。リョウ。こんな事を言っているが、コイツ等の狙いは、ドラゴンを危険生物に指定して管理下に置く事だ。そこに自由は無い」

「まだ何も言って無いでしょう!?」

「まだ。という事はこれから言うつもりだったという事だ」

「そうやって一部の言葉を捕まえて! 何か企んでいるんじゃないんですか!? 何も無ければ素直に協力するハズです!」

「目的の分からぬ怪しい組織に協力するほど、我々は耄碌していない。まぁ、君は耄碌しているかもしれないが、な」

「なんですって!? 誰が年寄ですか! 誰が!」

「500年も生きていれば老人だろう。お前こそ何を言っているんだ?」


 言い争いをする皇帝陛下とミクちゃんをそのままに、俺はジキちゃんのお母さんと共にジキちゃんが居るであろう場所へと向かう。

 飛行魔法は解除して貰い、ジキちゃんのお母さんに乗りながら、だ。


「でも、良いんですか? 乗せて貰って。人間、あんまり好きでは無いでしょう?」

「まぁ、な。だが、お前はジキタニスを救う為に尽力してくれたのだろう? ならば、良い」

「……」

「まぁ、人間にも色々いるというのは分かった。ならば全てを憎む必要は無いだろう……お前も平然としているが、私達を殺せるだけの力がある様だしな」

「まぁ、そうですね……一応」


 バレていたか。と思いながら、俺はジキちゃんのお母さんと一緒に地上へ降りたのだが。

 その途中に何か妙な事が起きているという事に気づいた。


 そう。ジキちゃんのお母さんが少しずつ小さくなっていったのだ。

 何かの魔術の影響か!? と驚いていると、ジキちゃんのお母さんが教えてくれる。


「ま、まずいですよ! ジキちゃんのお母さん! 体が!」

「あぁ。小さくなっている事か? これは我らの魔法だ。体の大きさをある程度変える事が出来る」

「な、なるほど」

「先ほどジキタニスが攻撃された時にも思ったが、我らの体が大きすぎると、敵に狙われるからな。人間社会も油断が出来ないと分かった」

「でも小さくなると余計に危ないのでは?」

「問題はない。体の固さも、戦闘能力も、何一つ落ちてはいない。並の人間に負ける事はないだろう」

「それは良かったです」


 しかし、冷静に考えると小さくなっても戦闘能力は同じって……流石に規模は落ちるんだろうけど。

 それでも相当な脅威だろうなと思う。

 逆に小さくて、生半可な攻撃は一切通らないドラゴンが街の中から炎を噴き出して街を攻撃するってだけでも対処するのが大変そうだ。


 それに、おそらくだけど、ドラゴンが小さくなれるって話は誰も知らなそうだし。

 誰も教えてくれなかったしな。

 知ってたら教えてくれただろう。


 ……一応セオストに帰ったら資料を調べてみるか。


「お、ジキちゃんですね。どうやら元気になったみたいだ」

「ジキタニス!」

「あ、ままー! あのね。ジキちゃん。いたいいたい、してたんだけど。リンが助けてくれたの!」

「あぁ。知っているよ。ただ、話を聞く前に、お前も小さくなりなさい。その方が安全だ」

「わかったー! ふーん、てーい!」


 ジキちゃんは気の抜けた声を出しながら気合を入れて、少しずつ小さくなっていった。

 その光景をリンちゃんはビックリした様な顔で見ている。


 やはり、リンちゃんも知らないのか。

 そうなると、ドラゴンが小さくなるという話は本当に有名では無いらしい。


「リンちゃん。ジキちゃんの事、ありがとう」

「あ、いえいえ! 全然! 大した傷では無かったので! ヤマトでのリョウさんの傷に比べれば簡単な治療でした」

「その節は大変お世話になりまして……」

「いえいえ。あれから無茶はしていない様で安心してます」


 ニコニコと微笑むリンちゃんに、先ほどドラゴンの吐くブレスを切り裂いて、危うく死ぬところだった。とは言えないなと心の中で思う。

 まぁ、言わなければ誰も知らない出来事であるし。

 俺はひとまず心の奥にその事を隠してジキちゃん達と話をするのだった。


「とりあえず怪我が治って良かったよ。ジキちゃん」

「うん! ねー。びっくりしちゃった」

「ジキちゃんに悪い事をした人達は、お母さんがえいやって、怒ってくれたから、もう安心だよ」

「そーなんだ! ありがとー! ママ―!」

「良いの。私も色々分かったからね。助かったわ。ジキちゃんのお陰ね」

「えへへー」


 ジキちゃんは人間サイズのまま嬉しそうにテヘヘと笑う。

 こうしていると可愛い物だ。

 まぁ、腕を振るえばその辺の木を全てなぎ倒せるワケだが。


「では、ジキちゃんも治りましたし。家に戻りますか?」

「そうね。もうここに用事は無いし。帰ろうかしら」

「それが良いと思います。こっちはまだ何か起きる可能性がありますからね」

「そう。じゃあ早く帰る方が良さそうね」

「えぇ」


「えぇー! もう帰るのー? ジキちゃん、もっと遊びたい!」

「我儘言わないの。痛い思いしたでしょ」

「でも、たのしいのは足りないモン」


「ならさ、ジキちゃん。さっきも言ったけど。ジキちゃんの家に遊びに行くから。そこで遊ぼうよ」

「ホントに?」

「あぁ。俺は嘘を言わないよ。必ず行く」


 ウルウルと泣きそうなジキちゃんに俺は慰めではなく本心でそう言った。

 実際、ドラゴンが住んでいる場所というのも気にはなるし。

 山の奥か、森の奥か。湖の中か。


 いや、湖の中には行けんな。


「じゃあ、りょう。またね……?」

「あぁ。また。必ず」


 名残惜しそうに小さくなった手を俺に伸ばすジキちゃんに、俺はその小さな手に触れて、笑った。

 まぁ、遊びに行くときはゲームとかを持って行くとしよう。

 後は、家のみんなを連れて行くのも良いかもしれない。


「リョウ」


 なんて考えていたらジキちゃんのお母さんに名前を呼ばれた。


「何か?」

「私達の住む家よ。貴方には教えておくわ。おそらく、家に帰ったら迷いの結界を作ると思うから」

「分かりました」


 ジキちゃんのお母さんは俺の頭に触れ直接、場所の記憶を刻み込んできた。

 まぁまぁびっくりした。

 しかし、これでジキちゃんの家が分かった為、俺は手を振ってジキちゃん達と別れを告げるのだった。


 さて、残された問題は、リメディア王国とバクーシ帝国の問題だけか。

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