第295話『|巨大生物降臨《ドラゴン事変》3』
ジキちゃんのお母さんが話を聞いてくれるという事で、俺はこれまでに起こった色々な事をジキちゃんのお母さんに説明する事にした。
そこまで長い話にはならないが、ドラゴンの感覚は分からない為それなりに手早く説明する事にする。
「ジキちゃんが誘拐された今回の事件は、そもそもリメディア王国の人たちがやった事じゃないんですよ」
「リメディア王国?」
「えーっと、この辺りの平原に住んでいる人たちです」
「なら、誰が起こした?」
「まだ確証は無いですが、おそらくはリメディア王国の隣にあるバクーシ帝国の人たちが」
「じゃあ、その国を滅ぼせば良いって事?」
「いや、それもそれで困りまして……なんでかって言うと、悪いのはバクーシ帝国の上の人たちで、普通に暮らしている人たちは何も知らないんですよ」
「面倒な話だね……」
「そうですね。面倒な話で申し訳ないんですけど、実際の所。個々人によっても考え方は違いますし。それが集まった集団でも考え方が結構違うんですよ」
「なるほど。分かった。しかし、そういう事なら、私達はどうすれば良い?」
「うーん。出来ればこのまま家に帰って欲しいんですけど」
「嫌だね。このままお前たち人間を見逃せば、また同じ事が起きるかもしれない」
「まぁ、そうですよね。なら、どうしましょうか……」
俺はうーんと唸りながら、今回の事件の解決方法について考える。
が、正直なところドラゴンの事と同じくらい国家の事もよく分からないのだ。
いや、しかし、分からないのなら分かる人に聞くというのも手か。
「ジーナちゃん」
「んー? どしたの?」
俺たちの話になど一切興味がないとばかりに空中で器用に寝転んであくびをしていたジーナちゃんは眠そうな顔で俺を見やる。
いや、そんな子供みたいな顔で、何をやってるの。とツッコミを入れたくなったが……まぁ良い。
今大切なのはジーナちゃんの話じゃない。ドラゴンの方の話だ。
という訳で。
「ジーナちゃん。皇帝陛下がどこに居るかわかる?」
「うん。分かるよ。エリク君、わかりやすいし」
「じゃあ、皇帝陛下の」
「うん。連れて来れば良いんだよね?」
「え? いや、ちがっ!」
違うよ。と伝える前に、ジーナちゃんはパッと姿を消し、次の瞬間にはやや驚いている皇帝陛下を連れて戻って来た。
そんな暴走に俺は頭を軽く押さえるが。まぁ、ここまで便利に転移魔法をお願いしてきたツケみたいな物だろう。
やりすぎは良くないという事だ。
「ジー……いや、リョウ。これはどういう事だ」
一瞬ジーナちゃんに話しかけようとした皇帝陛下であったが、思い直し、俺に話しかけた。
まぁ、そうね。
気持ちはよく分かりますよ。
という訳で、俺は皇帝陛下に起こった事について伝えた。
「実は、ジキちゃん……あー、例のリメディア王国で寝ていたドラゴンですね。あの子が起きてから、何とか対話を試みまして。対話は成功したんですけど。ジキちゃんの声に反応して、こちらにいらっしゃるジキちゃんのお母様が来まして……そのまま対話を何とか成功させたんですけど、ジキちゃんが何者かに攻撃されまして、許せないとお母様が現在バクーシ帝国を滅ぼしたいと考えている状態でございます」
「……なるほどな」
「しかし、やはりバクーシ帝国を攻撃すると帝国国民が被害を受けるという話もありますが、面倒な問題にも発展する可能性があるのではないかと思いまして」
「うむ。リョウの思考は正しい。よくぞ私を呼んでくれた。そのまま攻撃していたらかなり面倒な問題に発展しただろう」
「……やはりですか」
「あぁ。最悪は世界国家連合議会の災害対策局。という連中が介入してくる」
「……うん?」
「お前は知らないだろうがな。あそこの局長は面倒な奴なのだ。融通が利かないし、解決するという事にばかり意識が向いていて、暫定対応という物への理解が低い。関わらせない方が良い」
皇帝陛下の言葉に、俺はチラッと下に意識を向けながら、再び皇帝陛下へと意識を戻した。
すぐ下に、噂のミクちゃんが居るんですよ。とは口が裂けても言えまい。
そして、パッと言ってしまいそうな……ここにミクちゃんを連れて来た子はふわふわと浮きながら寝ている為、問題はない。
「分かりました。では悟られる前に、迅速に解決する必要がありますね」
「そうだな。という訳だ。母ドラゴン。私の話を聞いてもらえるか?」
「なんだ」
「直接帝国を滅ぼす事は容認できないが、その理由はお前たちを守る為という意味が大きい」
「どういう意味だい」
「我々の世界には、人間の安全という目的の為なら他種族を滅ぼす事も厭わない者達が居るんだ。そいつらに見つかると最悪は全面戦争になる」
「それを私が恐れると思うか?」
「いや? 君は恐れないだろう、だが恐れぬまま死ぬことになる」
「っ! 私が、お前たち人間に劣るというのか」
「あぁ。そう言っている。現に君はこうして私達と言葉を交わしているではないか」
「それは……!」
「あぁ。おそらくはジーナに敗北したから。だろう? だが、人間にはジーナと同じくらい強い者はいくらでもいる」
「……!」
「だが、基本的に彼らは平和を愛し、ドラゴンである君たちとも同じ世界で共に生きていければと願っているんだ。君が踏み込めば、彼らは君を滅ぼす為に立ち上がるだろう。君の大切な子供ごとね」
「……ならば、どうすれば良い?」
「簡単な話だ。バクーシ帝国には少しばかりのお仕置きをして、二度と君たちに手を出させない様にすれば良い」
「お仕置き……?」
「ですか?」
俺はジキちゃんのお母さんと共に疑問を皇帝陛下に返した。
そんな俺たちの疑問に、皇帝陛下はニヤリと笑ってから、言葉を返す。
「実は先ほど妙な男を捕まえてな。そいつは魔導具で氷の魔術を使っていた」
「魔導具で氷の魔術って……あっ!」
「やはり心当たりがあったか。おそらくコイツは私の仕業に見せかけて子供ドラゴンを攻撃したのだろう。リメディアとスタンロイツを争わせる為に」
「では!」
「あぁ。そいつの口を割らせた所、奴はバクーシ帝国の者だと自白した。これで証拠はある。人間同士の諍いであれば、より詳細な証拠も必要であるが、ドラゴンが人間の国を襲うには十分な理由だ」
「なるほど」
「つまり、どういう事だい?」
「つまり、ジキちゃんのお母さんがバクーシ帝国の上空まで行って、その男をバクーシ帝国に投げながら、子供を襲ったという理由でそれなりに被害が出る威圧行動をすれば良いんです。ただし、人を殺してしまうと向こうに正義が出来てしまうので……」
「加減が難しいね」
「それについては問題ない。バクーシの上空で羽ばたけば、それだけで帝都は壊滅だ。怪我人は出るだろうが、死者はそこまで出ないだろう。そうなれば、怒りに包まれた国民は、帝国の貴族を責め、少しばかり静かになるという事さ。リメディアもドラゴンたちの世界もな」
皇帝陛下がニヤリと笑いながら示した案に、俺たちは同意して、ひとまずジーナちゃんを連れながらお母さんドラゴンと共にバクーシ帝国へと向かった。
そして、皇帝陛下が示した様に言葉を放った後、ジキちゃんのお母さんは全力で羽ばたくのだった。
その影響はすさまじく、様々な建物が風の影響で倒壊してゆく。
一応帝都が全滅する様な事にはなっていないと思うが、それでも被害は甚大な様だった。
俺たちは一定の成果が出せた事に満足し、再びジキちゃん達が居る場所へと戻る。
そこに何があるか、意識の外に置いたまま。
「コラぁー! 今通信が入りましたよ! バクーシ帝国の上空に巨大なドラゴンが現れ、帝都を壊滅させたと!」
「あ」
「……何故ここに居るのが分かった」
「そこの! ジーナさんが! 私を連れて来たんですよ!」
「なに?」
皇帝陛下はミクちゃんの言葉にチラリと隣で寝ているジーナちゃんを見て、深いため息を吐くのだった。
一つ問題が解決したと思ったら次の問題だ。
何とも忙しい事である。




